第一章 日曜日

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オートロックのインターホンが鳴った。 シノブはオートロックを解除しレオが上がってくるのを待った。玄関に足音が近づいてくる。レオが玄関のインターホンを鳴らす直前にシノブは玄関の鍵をあけた。 「おー!!シノブ!!元気だったか?久しぶり〜」 「レオ君こそ久しぶりだよ。ささ。上がって」 家に招き入れ、玄関の鍵を閉めた。 その瞬間、レオはシノブに抱きついた。 「えっっ??レオ君どうしたの? 大丈夫??」 シノブはびっくりして立ちすくしてしまった。 レオの体はシノブよりも10センチほど大きい。 1分ほどレオに抱きしめられたまま時が過ぎた。 「レオ君、苦しい・・・」 「ごめん。いきなり抱きついて。さっきお前が怖いこと言うから。公園走ってきちゃってさ。でも俺、酒飲んでるから、息があがって上がって。なんかお前の顔久しぶりに見たら安心してさ〜」 シノブは自分の顔が赤くなっている事に気がついた。 だがそれに気が付かれてはいけないと、レオの腕をすり抜けキッチンに向かった。 「レオ君、そこ洗面だから、手洗ってね」 「お、おう・・・」 レオはやってしまったと思った。 子供の時から実は暗いところが嫌いなこと、それに動揺して抱きついてしまったこと。 洗面台の鏡を見て恥ずかしくなった。 顔も洗ってしまおうとしたところへ、シノブがタオルを持って現れた。 「レオ君タオル、ここに置いておくね」 レオは勢いよく顔を洗った。 シノブはキッチンに戻りヤカンを火にかけた。レオが顔まで洗って、タオルを手にリビングに入ってくる。 「シノブ、ほんと突然悪かったな。久しぶりなのに、突然電話しちゃって」 「え?いいよ。最近どうしてるかな〜って思ってたところだし。明日、僕もバイトないし夜更かししてたし」 「いや〜、飲んでたのがここら辺だったから、マジ助かったわ〜。俺の実家はもう引越しちまってるからさ〜」 「あ。そっか。そうだったね。レオ君の実家、お父さんの地元に引っ越したんだったね〜」 「そうだよ。気がついたら俺だけ。母さんも親父も、地元でゆっくりするんだって」 「え?でもレオ君のお父さんミュージシャンでしょ?仕事、引っ越しても大丈夫なの?」 「あ〜。親父の地元って言っても、車で1.5時間くらい田舎に行ったところだからどうしてもスタジオ来なきゃいけない時は車で来てるよ。まあ、俺が学校あるからこっちで一人暮らししてるだろ?たまに親父泊まってくけどな。狭いのなんのって」 「ふふふ。レオ君のお父さんなら全然お構いなしっぽいね」 「そうだよ!ミュージシャンは道でも寝れる!っていつも言ってるような親父だろ? でかい男が二人でワンルームで寝てるなんて、地獄絵だよ。まあ、親父は確かにどこでも寝れるタイプみたいだけどな〜。ははは」 そういうと、大きく笑ってみせた。 シノブはこのレオの笑顔が好きだった。 昔から変わらず自分にも豪快に笑って見せてくれる。 そんな友達はレオくらいしかいなかった。 「それにしてもお前の部屋、一人暮らしの割に広いよな〜」 「うん。このマンション、僕の母さんがたまに仕事しにくるんだよ。だから2LDKで一部屋は母さんの仕事べや兼衣装部屋。家賃も一部払ってくれてるから」 「え?まじ?お前の母さん何の仕事?」 「あ〜、ずっと専業主婦してたんだけど、僕が高校入った頃からメイクの勉強し始めて、今やメイクアップアーティストとかしてるよ。なんか、おばさま向けの講演とかもしてる。元々美容師だったみたいだから、その時の繋がりもあるらしくて」 「お前の母さん、何だかすげーな」 「そう?まあ、母さんは、やるって言ったら猪突猛進するタイプだからね〜」 「確かにな。うちの母さんとも仲良かったもんな〜」 「そうだね。いつも僕が体調崩すとレオ君のお母さん、ゼリーとかアイスとか作って持ってきてくれてたもんね。まあ持ってきてたのはレオ君だけど」 「あ?そうだっけ?そんなこともあったかもな」 レオは恥ずかしそうに少し笑った。 ヤカンからシューシューと音がし始めた。 シノブはマグカップを二つ用意しレオに聞いた。
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