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「ねえ、レオ君、何飲む?コーヒ?紅茶?あ、ココアもあるよ」
「え?酒は?」
「え?お酒?飲んできたんじゃないの?うちには今、お酒は・・・ブランデーとワインしかない・・・かな・・」
「まじ?お前えらくオシャレな飲み物飲んでるのな・・・」
レオは苦笑いをしている。
「レオ君まだお酒飲みたいの?じゃあ・・・ワイン?」
「お前も飲む?」
「え?僕はこの時間からワインはちょっと・・・。
ブランデーのお湯割りなら付き合うよ」
「そうだな、俺も今からワイン一本は無理だわ〜。
じゃあ俺もそのブランデー飲んでみる」
「飲み方はどうする?普通はストレートだけど、もう今日飲んでるもんね」
「え?おすすめの飲み方でいいよ。俺わかんないし。笑」
「わかった。じゃあ、一応ストレートにしとくけど、キツかったらロックでも、お湯割りでも」
マグカップを直しホットグラスを二個出した。
一つは自分用のブランデーのお湯割り。
もう一つはストレートで。
「はい。レオ君はこっち」
レオにブランデーを手渡し、二人並んでソファーに腰掛けた。
「お前いつもこれ飲んでるの?」
「ううん。いつもってわけじゃあないけど、たまに風邪引きそうな時とか寝れない時とかに、お湯割りにして少し飲むんだ。ブランデー好きの人からは、割るなって怒られそうだけど・・・」
シノブは笑ってみせた。
レオは何だか同じ歳のシノブが自分より大人に見えたことに少し嫉妬した。
「やっぱり社会に出ると、俺ら学生とは違うよな〜。俺らもっぱらビールか酎ハイだもんな〜」
「え?僕もそうだよ。でも僕あんまりお酒強くないから、学生の時から飲み会とか苦手だったし」
「そうだったな。去年の成人式の後みんなで集まったときも、お前、飲んでなかったもんな。僕車なんで・・・とか言ってさ。まあ、そう言ってくれてたから、俺、潰れてもシノブが面倒見てくれるか・・とか思って飲みまくったけどな」
「そうだよ。レオ君すごく飲むから、僕心配しちゃって、気が気じゃなかったもん。しかも気がついたら寝てたし」
「あ〜あの時は悪ぃ悪ぃ〜。結局俺の親父に迎えにきてもらったんだったわ」
「そうだよ、僕がレオ君のお父さんに電話したんだよ。当時僕まだ実家だったし。ほっとけないし」
「そうだったな〜。なのに半年でお前、卒業してバイトして、引っ越したもんな〜。
しかも今はブランデー飲んでる。めっちゃ大人だわ〜」
レオは豪快に笑った。
「そんな事ないよ。僕は今声優としては見習いみたいなもんだからいっつも先輩にいじられてるし。バイト先でも、失敗しまくってるし」
「あ。お前、バイト何してんの?」
「バイトは、知り合いのバーで働かしてもらってる。まだ初めて間もないんだけど。週に3日いってる」
「え?お前バーでバイトしてんの?お酒弱いのに?笑」
「うん。お酒弱いってマスターにも言ったんだけど、 お酒の知識ちゃんと持ってたら、どれが飲めてどれが飲めないか、おしゃれに断る方法も教えてくれるって言うから・・・」
「なるほどね〜。知り合いのバーなんだろ?じゃあ、マスターもそこら辺汲み取ってくれてるんだな」
「うん。そうだと思う。声優の学校の先生の友達のバーだから。過去にも声優の卵が、よくバイトしてくれてたって言ってたし。お客さんも紳士的な方ばかりだから、無理に飲まされることもないし。時給も昼職よりいいから効率よく稼げるし」
「そっか〜。お前やっぱり俺より大人だわ」
「そうかな〜。必死なだけだよ。このブランデーもマスターが教えてくれたんだ。ブランデーならたとえストレートで飲んでも自分のペースで飲めるし、無理にお酌されることもない。味が嫌いでなければ、お湯割りとか、ホットにして、寝酒がわりに飲む人もいるよって。少し体を温めたい時にはちょうどいいって。あと、カクテルもいくつか知っておいたらいいって。カクテルって名前ついてるから、よほど詳しい人でなければ、たとえアルコールが弱いカクテルでもバレないって。オーダーするときもスマートだよって」
「なんかすげ〜な。俺ら学生はとりあえず飲めたら何でもいいって感じだもんな」
「レオ君はブランデーの味嫌い?」
一口ストレートで飲んでみる。
「うお!これまあまあきついじゃん!お前これ飲めんの?」
「ううん。少しなら飲めるけど、酔っちゃうからお湯割り。へへ。でも味は結構好きかな〜」
「そっか俺これ飲んだら撃沈するわ。この時間だし」
「本当はね、ちゃんとブランデーグラスに入れて手のひらの熱で温めながら、香りを楽しんでゆっくり飲むんだって。そしたら香りも立っていいらしいよ」
「ヘ〜。何だかいちいちオシャレだな」
「ハハ。そうだね。確かにいちいちオシャレ。でもうちにはブランデーグラスないから、ホット用のグラスでごめんね。氷とか入れる?」
「そうだな。このままストレートで飲んじまったら、俺そっこー寝ちまうから氷入れてくれる?」
「うん。ちょっと待ってね」
冷蔵庫に氷を取りに行ったシノブは、少し嬉しかった。自分の部屋でレオとお酒を飲んでいる。
実はバーで働きだしてから、いつかはレオと二人きりで飲んでみたいと思っていたのだった。外で飲むことを極力控えていたシノブにとっては、初めてのことだったのだ。
「はい、氷お待たせ。それとこれ。チョコレートあったから。ブランデーには合うってマスターからこないだもらったんだ。店でお客さんにもらったから持って帰っていいよってもらったんだ」
「え?これゴディバじゃん。いいの?」
「うん、二週間くらい前にもらってたんだけど、一人で食べるのはもったいなくって。賞味期限とか大丈夫だよね?僕気にしない人だから」
「え?チョコにも賞味期限とかってあんの?
俺そもそも知らなかったわ」
「多分ある。でも冷蔵庫入ってたし大丈夫と思う・・・」
シノブはチョコをピックで刺して一つ口に入れた。
レオはその姿を見て少しドキッとしてしまった。
思いのほかシノブが色っぽく見えたのだ。
え?俺なんでシノブにドキッとしてんの?
「レオ君も一つどうぞ〜」
シノブからチョコを差し出され思わず口をあけた。
「え?あ〜んしてる?」
レオの顔は真っ赤だ。
俺、なんで口開けてんだ?
「仕方ないな〜、はいあ〜ん」
口の中にチョコレートが入ってきた。
レオは顔から火が出そうになってる自分がいることに戸惑っていた。
俺、まじで何してんだ?
酔ったのか?ブランデー?
そこからのシノブとの会話は完全に上の空になっていた。
「レオ君!レオ君!しっかりして!眠たいならもう寝よ!毛布出してあるから。ソファーで寝ていいから」
シノブに声をかけられて、はっと気がついた。
そうだ。もう深夜1時半を回っている。
「レオ君電気消すよ。僕はあっちの寝室で寝るから、この毛布かぶって寝てね」
「お。おう。おやすみな。今日はありがとな」
リビングの電気が消される。
レオは出された毛布に包まってそのまま寝た。
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