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「ん、あれ••••••ここは」
「陽!お前どうしたんだ!心配したんだぞ!?」
血相を変えて駆け寄ってきた霧江に何とか返事を返す。それにしても頭が重たい。まだ妖力を入れられた衝撃の残り香があるのかもしれない。
「すまない、霧江。それはそうと、ここに桜の木がなかったか?」
「は?••••••そんなのここにはないけど。だって、ここ路地裏だし」
やっぱり旋が見せた幻想だったのか。路地裏に座り込んでいた私は立ち上がって霧江に謝った。左目を隠すことを忘れずに。
「謝んなって。お前が誰よりも妖が嫌いなの知ってるから。それはそうと、妖はどうなった?」
「え、あぁ――さっき追い付いて斬り捨てたから大丈夫」
「よかった。••••••さて帰って報告書、書かないとな」
「面倒になるな」
「なぁ、左目どうした?」
その問いに思わず立ち止まってしまう。霧江も気にしたのか、私の前で立ち止まって覗き込んでくる。
「あぁ、色々とあったんだ。気にするな」
「••••••へぇ」
何とか興味を逸らして前を歩かせる。それに重たい足取りで追い掛ける。
帰るのは昼間か、夕方か。休みをくれればいいのだけれど。
霧江と夜が更けていく街を歩いていく。
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