188人が本棚に入れています
本棚に追加
《参》愛憎ニ舞ウ胡蝶
「ん、もう••••••朝か」
気だるさを残した身体を布団から起こす。
昨夜『夫婦は二人で寝るものだ』と言われ、物凄く嫌だったが仕切りを置くならと許可して眠っていた。着衣も乱れていないし、旋は寝ている間に何もしてこなかったようだ。枕元に刀も置いていたけれど、無駄足だったようで少し落胆する。
立ち上がって寝室の襖を開ければ、少し冷たい春風が入ってきた。耳に掛かり始めた髪を揺らしていく。目を擦りながら、家の前にある井戸へ向かい水を汲む。その水を手に乗せて顔に被せた。
今の時代には珍しい洗面所もこの家には存在するのだが、井戸水の方が冷たいのだ。これは眠気を飛ばす為の毎日の儀式のようなものだし、その方がいい。その前に清潔でいたいのだけれど。
終わってから台所に向かう前に居間に寄る。小さめの卓袱台に、頬杖を着きながら新聞を読んでいる旋がいた。一体いつ起きたのか、音が全くしなかった。彼は心底興味なさげに文字を目で追っている。漸くこちらに気付いたようで、口角を少し上げて『おはよう』と言ってきたので小声で返しておいた。
「面白い事件があるみたいだな。お前の出番じゃないか?」
新聞をチラつかせ、私はそれを貸すように求めると畳んでから私に持たせた。依然として旋は半笑い状態である。取り敢えず文章を目で追ってみる。
『帝都ノ夜二現レル死体。胡蝶ノ花婿、六件目』
最初のコメントを投稿しよう!