《参》愛憎ニ舞ウ胡蝶

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《参》愛憎ニ舞ウ胡蝶

「ん、もう••••••朝か」 気だるさを残した身体を布団から起こす。 昨夜『夫婦は二人で寝るものだ』と言われ、物凄く嫌だったが仕切りを置くならと許可して眠っていた。着衣も乱れていないし、旋は寝ている間に何もしてこなかったようだ。枕元に刀も置いていたけれど、無駄足だったようで少し落胆する。 立ち上がって寝室の(ふすま)を開ければ、少し冷たい春風が入ってきた。耳に掛かり始めた髪を揺らしていく。目を擦りながら、家の前にある井戸へ向かい水を汲む。その水を手に乗せて顔に被せた。 今の時代には珍しい洗面所もこの家には存在するのだが、井戸水の方が冷たいのだ。これは眠気を飛ばす為の毎日の儀式のようなものだし、その方がいい。その前に清潔でいたいのだけれど。 終わってから台所に向かう前に居間に寄る。小さめの卓袱台(ちゃぶだい)に、頬杖を着きながら新聞を読んでいる旋がいた。一体いつ起きたのか、音が全くしなかった。彼は心底興味なさげに文字を目で追っている。漸くこちらに気付いたようで、口角を少し上げて『おはよう』と言ってきたので小声で返しておいた。 「面白い事件があるみたいだな。お前の出番じゃないか?」 新聞をチラつかせ、私はそれを貸すように求めると畳んでから私に持たせた。依然として旋は半笑い状態である。取り敢えず文章を目で追ってみる。 『帝都ノ()二現レル死体。胡蝶(こちょう)花婿(はなむこ)、六件目』
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