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執務室の西洋椅子に向かい合わせで座ると、霧江から渡された書類に目を通す。大々的に『特異・害妖討伐任務』と書かれており、今回の対象が大きな存在であることを思わせる。しかし不自然な点があった。
「霧江。何故こんなに任務説明があるのにも関わらず、重要な対象が不明なんだ?」
あーそれなぁ、といつもの感じで話し始めた。目だけは至って真剣だ。
「最近帝都を騒がせている"人間狩り事件"があるだろ?その犯人かも知れないんだよ、此奴が」
"人間狩り事件"。それは今、帝都中を震撼させている連続殺人事件のことだ。男女、子供も関係なく無惨に殺される事件で、現にもう被害者は十人を超えている。全ての死体には、鋭利な刃物で斬られた痕跡や食い千切られたようなものもあり、その犯人が人間なのか、妖なのか分からなくなってきていた。
霧江が眉間に皺を寄せて、髪を掻きむしっている。そして一際大きな溜息を吐いた。その拍子に書類を握り潰している。
「俺もこれ見た時さ、鳴瀬大佐に聞いたんだけど。これに関しては本当に何も分からないんだと。無害な妖を殺しちまっても駄目だし、俺も困ってんの」
虚構を睨み付けながら、そう話す霧江に私はあくまでも冷静に返した。
「兎に角、霧江。帝都の住民には夜間の戒厳令が敷かれている。••••••これ以上、被害を出したくない。犯行時刻は真夜中の十二時頃だ。その頃に、任務を遂行しよう」
「はいはい。藤堂中佐の仰せのままにやりますよ」
笑いを浮かべながら、私に頭を下げてくる霧江に少し苛つきながらも席を立った。
この時の私は、任務中に起こる人生を変える出来事なんて、想像すらしていなかった。
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