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夜の帝都は現在、戒厳令が敷かれている。その為、昼間の活気は跡形もなく消え去っていた。私は妖刀の『哀染華』を腰に携え、霧江と共に帝都を渡り歩いていた。帝妖隊が使う妖刀は自分で作る。妖の力を刀に込めるのが自分達ということだ。
一般人がやれば一発で死ぬような作業だが、帝妖隊の隊員は全員、訓練のお陰で妖力に耐性を持っている。だからこそできる作業なのだ。『哀染華』は妖狐の力を秘めており、かなり強力だ。そしてこれは鞘から取り出すと、哀色に光り輝く。名前に"華"を付けたのは、刀の柄に桜の紋様と飾りが付いているから。
そうこうしているうちに、事件現場辺りに辿り着いた。
「さてと、この辺りで毎回殺られてるけど何もないな」
「あぁ。でも妙にきな臭い」
重点的に被害が出ているのは路地裏ではなく、日中、人通りの多い表通り。朝日が昇り、人が出歩く時間帯に死体が発見される。妖か人間か分からない状態で、戒厳令を敷く以外に方法がなかった。民の安全を守るのが、軍警察の役目だから。
周りに目を配りながら歩いていると、不意にシュンと黒い不穏な影が流れていくのが見えた。
間違いなく、妖だ。
「あっ」
「ん、どうした?」
「妖••••••っ!」
「おい陽、待てっ!!」
私は霧江の言葉を無視し、哀染華を引き抜いて街を駆け抜けた。目はとっくに暗順応していて、影を追うのに苦労はなかった。煉瓦道に軍靴の底が当たってそのたびに音が響く。
どのくらい走ったのか分からない。だいぶ息が切れてきた。黒い影は、路地裏を通って表に出るという行動を繰り返していた。それを見逃すまいと走り続ける。
すると、やがて煉瓦を踏む音ではないものが聞こえ、私は漸く草むらに入ったことを悟った。しかし黒い影は突如、靄となって消え去り、妖刀が放つ神秘な輝きだけが残っている。
まだ妖が潜んでいるかも知れない。警戒心を残しつつ、歩みを進めていくと開けた場所に出てきた。雲に隠れていた月が顔を出し、周辺を照りつける。
「••••••え?」
目の前に見えていたのは、満開になった桜の木。だけれど、明らかにおかしい。もう既に葉桜の季節になっているのだから、満開の桜なんてあるはずがない。分かっているのに、魅入ってしまう美しさがそれにはあった。
視線を正面に向き直すと、呼吸が止まる。そこにいなかったはずのモノが居たからだ。ただの妖ではない。ずっと探していた復讐の相手。其奴がこちらを振り向き、妖艶な笑みを浮かべた。
「久しぶりだな。餓鬼」
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