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「貴様••••••!!」
あの時と全く変わっていない風貌と二つのツノ。相変わらず被り物をしていたが取り去り、白い髪と金色の目が覗く。私は哀染華を持ち直し、戦闘態勢に入る。それを見て其奴はこちらを嘲笑するように笑った。
「もう十年か。それにしても、ちんちくりんのままだし軍服姿ときた。女らしさの欠片もねぇな」
「黙れ、鬼風情がっ!!」
怒鳴っても其奴は怯むどころか、楽しんでいるかのように口元を歪めた。私だって、家族さえ失わなければ女性らしく生きていたに違いない。
可愛らしい着物と女袴を身に付けて女学校に通っていたかもしれない。もしかしたら、誰かと恋仲になっていたかもしれない。女友達を作ってお喋りだってしたかった。
そう思えば思うほど、鬼神に対する復讐心が燃えていく。
「今ここで殺してやる!鬼神!!」
私は足を思い切り踏み込んで、鬼神に斬り掛かる。やはり妖。幾ら斬り掛かっても、簡単に避けられてしまう。私は奥の手を使う事にした。
「哀染華!!」
妖刀に名前を呼び掛けると、中にいる妖の力が強力になる仕組みである。それは哀染華に限らず、霧江が持つ夜叉が秘められた妖刀••••••『叉香院』もそうだ。哀染華の哀色が一際強くなり、刃が鬼神の頬を掠った。その白い肌に似つかない紅色が一筋なぞる。
「ほぅ。剣術の基礎はちゃんと出来てるんじゃねぇか。女の色気を捨てた甲斐があったな」
「五月蝿い!!僕は男だ!!」
また斬り掛かろうとすれば、鬼神の爪があの時と同じように伸び、私の額に当てられた。刺さってはいないが、金縛りのようになり身体が硬直している。
声も途切れ途切れにしか出せない。
「き、さま••••••!なにを」
「術をかけた。俺はお前と殺し合いをしに来たんじゃない」
「じゃあ、な、んだ」
苦しげに問いかければ、鬼神がニヤリと笑い私の腰に手を回す。そしてその長い指で顎を持ち上げられた。爪はいつの間にか元に戻っている。
その金色から目を離せないままに、言葉を続けさせてしまった。
「約束通り、迎えに来た。俺の伴侶となれ」
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