《壱》契約ハ突然ニ

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耳を疑った。何かの聞き間違えではないかと思ったが、その声は確かに伴侶••••••つまり嫁になれと言ってきたのだ。 確かに十年前、私を迎えに来ると言っていたけれど、まさかあの時から私を嫁にする気でいたのだろうか。 「は、なせ。お、にが、み」 「駄目だ。まだ肝心の契りを交わしていない」 「巫山戯るな••••••」 「巫山戯てなどいない。今夜お前は俺と契りを交わし、伴侶となる」 「ぜったいに••••••しないからな!」 金縛りが解けていない状態で押さえつけられ、満足に抵抗も出来ない。手の力が危うくなり、ストンと握っていた哀染華を落としてしまった。攻撃手段がなくなった私は、目の前の男を睨み付けることしか出来なくなっていた。 ずっと睨み付けていると、鬼神がフッと鼻で笑い私と顔を近くして来た。 「相変わらず威勢だけはいいな。だが、俺に平伏すところも見てみたい」 「は、んんっ!?」 距離が(ゼロ)になった。 ――私は好きでもない、むしろ憎んでいる鬼神と接吻している。 なんで、なんでこんな奴と••••••!! ドクンッ 「••••••う、かはっ!」 「これで契りは成立した。この刻を持って、俺とお前は夫婦だ」 何だこれは。ナニかが身体に流れ込んできて、全身が熱い。心做(こころな)しか左目も痛む。まるで。 金縛りが解けたのを見計らって鬼神から距離を取ると、反撃することなく私は草の上に座り込んでしまった。それを見た鬼神が近付いてきて、視線を合わせてくる。 「お前と契りを交わした証として、俺が注いだ妖力により左目は俺と同じ色になっている。解消するには俺を殺すか、俺が解消するかしかない。俺からする気は一切ないがな」 待ってろ、と言われ鬼神が手の上に鏡を出し、私に差し出した。言われた通り、私の左目は鬼神と同じ金色をしていて、今すぐ此奴を殺したくなった。 「貴様••••••!!」 「そう怒るな。大体、お前は任務中なんだろう?」 「そうだ!!どうしてくれる!!」 「人間狩り事件の犯人探しなら、もうしなくていい」 「••••••は?何故、貴様にそれが分かる。まさか貴様が犯人なのか?」 すると鬼神が溜め息を吐いて、深い草むらを指差した。 「あそこを見てこい」 「••••••••••••」 命令されたことに腹が立ったが、草むらに入り込み茂みを掻き分けると目を見開いた。 「貴様が、殺ったのか」 「あぁ。俺が殺しておいた。妻を危険に晒したくはない。••••••優しい夫でよかったな」 飄々とこちらを見てくる鬼神。私が見たもの、それはだった。此奴が犯人。既に息はなく、焦げたように黒くなっていた。まさかと思い、哀染華で死体を斬ると黒い靄となって消えた。此奴はだった。 「俺は人間にも化けれるからな。ずっと見ていた。此奴の狂気も、人間が死ぬ様も」 「••••••••••••」 見ていたんなら何で助けてくれなかったんだとら心の中で激昂した。本当に此奴は何を考えているのか分からない。仮に助けたとしても、その人達を食っていたかもしれない。そう思えば、これでよかったのだろうか。 何を思ったか、鬼神が草むらに近寄ってきて手を握ってきた。 「お前には、婚姻をさせているからな。三つ願いを叶えてやろう。なんでもいいぞ、ただし殺させろはなしだ」 願い。願いなんて、此奴が死ねばそれで終わるのに。使えるのなら、殺すまで使うか。私は手を振り払い、目を合わせて言った。 「なら言わせて貰う。一つ、僕はこの仕事を続ける。二つ、妖が関わる事件に協力しろ。三つ••••••」 三つ目の願いを言った時、鬼神は眉を顰め一瞬考えるような素振りを見せた。すぐにそれはなくなり、分かったと了承された。俺の願いも叶えろと言われて、叶えてもらっている身だから仕方なく応じる。 「一つ、剣術の腕を上げろ。二つ、お前の家に俺を住まわせ一人称は元に戻せ。三つ、俺を貴様ではなく名前で呼べ。どうだ、簡単だろう」 「仕事では僕と使う。••••••家では、構わないけれど。それと名前!貴様の名前は知らん。呼んであげるのだから、僕のことも名前で呼べ」 「そうだな、俺の名前は(ぜん)だ。覚えたか?陽」 「あ、あぁ、覚えた。旋」 此奴••••••旋に見詰められてると居たたまれない。所詮は妖で顔がいいだけの奴だ。 「先に家に行ってるからな」 そう言うと、桜の花吹雪で目の前が見えなく霞んでいった。
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