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「小町さん。今年も来たんかい」
「ああ、トネさん。今年も来たぜ」
「ホント懲りないねえ」
小皺が目立つトネの笑顔につられて、小町も笑った。トネは数年前からこのキャンプ場の管理人を務めている。トネがここに就任する前から毎年この時期に通う小町。今年で記念すべき十年目となる。
「まあな。あの子見てないよな?」
「ああ、今年も見てないな」
「そうですか……」
「しっかし、本当にいるのかね。その子」
「はい」
小町は必要事項を記入しながら、そう言い切った。そう、小町は毎年ある少女を探す為に毎年冬の時期にここに通っている。その少女の名前は知らない。顔も知らない。覚えているのは真っ白い服装と髪。そして、炎を閉じ込めたような赤い瞳だけだ。
コテージの鍵を借り、車から荷物を下ろす。今年もこの湖畔に一週間泊まる。日によっては吹雪で視界が見えないような北の湖。だが、吹雪がやんだ後の景色は息を飲むような美しさだった。小町はこの景色を眺める為にここに来たのかもしれない。毎年夕日が氷の張った水平線と山の向こうに消えていく様子を眺めながら時折そう思う。
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