白夢

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 Tシャツ女が手を振ると白い犬とアルビノ烏も「またね」と言いたげに雪の上ではしゃぐ。今夜も今まで通り不発で終わった。今頃雪の中で冷やしてるワインはきっと苦いのだろうなと小倉は考えていた。 「ああ、いい夜だなあ」  澄んだ空を眺めながら飲むワインはやっぱり苦かった。空気が綺麗な場所の夜空は都会のそれよりも綺麗だ。夜空を遮る淀んだ空気も人々を照らす街灯もない。余計なものが削ぎ落された空を眺めながらその下でキャンプを張る。この人探しの旅で得られる唯一の悦だろう。 「がうー」 「ん?」  どこかで聞いたような特徴的な鳴き声が聞こえた。小倉はキャンプの入り口から顔を出す。するとそこには、数時間前に見かけた白い犬が雪の中でお座りしていた。寒くないのかなと思い抱き抱えようとしたが、厚手のタオル生地のような体毛があるから平気だなとそれを辞めた。 「どうした?」 「がうー。がうー」
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