白夢

7/16
前へ
/16ページ
次へ
 白い犬はお座りの体制を解き、うっすら積もった雪の上を歩く。構ってほしそうに赤い舌を出す仕草はまるで「ついてこい」と言っているようだ。小町はダウンを着て外に出る。満点の空を、車が通った跡が消えた道路の真ん中を犬と並んで歩く。懐中電灯すらいらないくらい月明かりが明るい。吐いた息が白く現存する銀世界の向こう側。五分くらい管理棟に向かって歩くと、管理棟の前に誰か立っているのが見えた。 「こんばんは」  ネイビー色のダッフルコートを着て赤いマフラーを巻いた長身の少女は駆け寄った白い犬の頭を撫でながら言った。 「白い髪の少女を探しているんですよね?」 「ああ」 「会ってどうするんですか?」  まるで小町を試すような疑い深い視線を送る。同時に小町は確信した。この少女は何か知っている。あの白い髪の少女の手掛かりが今目の前にある。10年前から脳内で反芻し続けたあの言葉を言いたくて探してきた。 「言いたいことがある。少し話がしたいだけなんだ」 「……これを」  少女はコートのポケットから何かを取り出し、小町に手渡した。 「これは?」 「一時的に幽霊が視認できる目薬です」 「幽霊?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加