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白い犬はお座りの体制を解き、うっすら積もった雪の上を歩く。構ってほしそうに赤い舌を出す仕草はまるで「ついてこい」と言っているようだ。小町はダウンを着て外に出る。満点の空を、車が通った跡が消えた道路の真ん中を犬と並んで歩く。懐中電灯すらいらないくらい月明かりが明るい。吐いた息が白く現存する銀世界の向こう側。五分くらい管理棟に向かって歩くと、管理棟の前に誰か立っているのが見えた。
「こんばんは」
ネイビー色のダッフルコートを着て赤いマフラーを巻いた長身の少女は駆け寄った白い犬の頭を撫でながら言った。
「白い髪の少女を探しているんですよね?」
「ああ」
「会ってどうするんですか?」
まるで小町を試すような疑い深い視線を送る。同時に小町は確信した。この少女は何か知っている。あの白い髪の少女の手掛かりが今目の前にある。10年前から脳内で反芻し続けたあの言葉を言いたくて探してきた。
「言いたいことがある。少し話がしたいだけなんだ」
「……これを」
少女はコートのポケットから何かを取り出し、小町に手渡した。
「これは?」
「一時的に幽霊が視認できる目薬です」
「幽霊?」
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