親愛なるあなたへ

ああ、なんて凄惨な人形劇

互いにいがみあい、嗤いあい、罵りあい

誰も幸せになれない選択肢を選びつづける

この不協和音の作曲者はだれ？

積み上げてきた歴史が軋んでいる

まさか、また殺しあって、ニンゲン　ハ　ゼンメツ　シマシタ！で終わらせる気じゃないでしょ？

冗談じゃないわ

面白くない、面白くない群像劇

ああ、ほら

母が泣いている

父が震えている

親愛なるイヴよ、アダムよ

こどもたちが奪いあい、騙しあい、殺しあうのを、どんな気持ちでみているの？

あなたたちの侵した罪

キリスト様は全て背負ってくれたけども

あなたたちの償いは終わっていない

こどもたちが殺しあう様を、見届けるのが今のあなたたちの贖い

それは、耐え難い苦痛でしょう

ねぇ、

禁断の果実は、そんな代償を払ってまで食べる価値はあったの？

あなたたちの罪は、ここまで重たいものだった？

親愛なる私の兄弟たち、姉妹たち

彼らを歪ませたものは、なに？

どこで道を違えたの

搾取ばかり上手くなった狡猾な彼は世界企業のトップへ

貧困スラムに生まれた彼女は知らないおじさんに買われていった

醜い、醜い世界

光る画面なんが見なくても、顔をあげれば滑稽な、報われない悲劇が広がっている

どんな映画も敵わないよ

制作時間が桁違いだもの

…ああ、泣かないで、わたしの親愛なる人

大丈夫、辛くなったらわたしを見ればいい

わたしは『いい人』だから

努めて優しくあろうと心がけているし、困っている人に手を差し伸べる

電車で目の前に杖をついた老人が立っても、さあ！どうぞ座ってください！さあさあ！なんて言わないよ

そんな恩着せがましい言い回しはしない

目的地が近づいてきたフリをして、自然に席を立つ

謙虚に優しい人間にこそ価値がある

そしてわたしもその類

だからわたしの周りには、感動的なノンフィクションが広がっているの

人類が残した、最期の希望の光

ほんの一欠片の、淡い優しさ

だから、お父様、お母様

わたしを見て

わたしだけを……

…ああ、今日はとてもいい日

親愛なるあなたが、わたしの言葉をなぞってここまで来てくれたから

そうね、わたしだけじゃない

あなたもそうよ

遠いところにいるあなたも、わたしと同じ

世界を、少しでも良くするために

がんばりましょう、お互いにね