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『噴火』
支持率が伸び悩み毎日イライラしている総理大臣の元に、著名な火山学者、地震学者、地質学者がやってきた。学者たちが目の前の総理大臣に『近いうちに日本のどこかの火山が噴火し、大混乱が起こる』というデーターを示した。
「総理、今まで見たこともないような巨大噴火の予兆があります。日本のどこかで大噴火が起こり、日本国民が大混乱に陥ります。今すぐ対策を講じなければなりません」
「何、本当か、本当に火山が噴火するのか・・・うぅん」
「はい。間違いありません」
科学者からの報告を聞いて総理大臣の血圧も上がる。
総理大臣はこの科学者たちに、いつ噴火が起こるのかを調べさせた。そしてついに科学者たちが噴火の日を突き止めた。
いよいよ噴火当日。計測データーを見ていた火山学者が声を震わせた。
「まもなくです。まもなく噴火が起こります」
テレビは生放送で富士山をはじめとする主要な山を画面に捉え、刻一刻と噴火の時を待った。
官邸では総理以下閣僚、政権幹部、官僚が集まり、災害派遣の司令を出す準備を整えた。そしてまたその総理の様子をテレビが生中継した。全国民がテレビに注目しその瞬間を待っていた。
「どこだ、一体どこが噴火するのだ」
科学者がパソコンを見ている。数値がどんどん上がっていく。
総理も緊張の面持ちで画面を見る。
「もう、まもなくです」
ついに科学者がカウントダウンを始めた。
総理も、科学者も、一般市民も呼吸が止まり、固唾を飲む。
「5、4、3、2、1、0」
耳をすませ、五感を研ぎ澄ませ変化の予兆を感じ取ろうとする。
だがシーンと静まり返った山は何も起こらない。もちろん富士山も静かだった。
それでも多少の誤差はあるのだろうと総理大臣は緊張した面持ちでその時を待った。だが待てども待てどもその時はやってこなかった。徐々に落ち着かなくなり、総理の貧乏ゆすりが始まった。
カタカタカタ・・・
一方の火山学者たちは自分たちのデーターが間違っていたのかと慌てて計算しなおした、するとその時、微かな振動をキャッチしコンピューターが異常をとらえた。
「ついに、ついに始まりました!」
科学者の言葉をテレビが生中継し、みんなが画面に注目した。さぁ、いったいどこの山だ、どこの山が噴火するのだ。
小さな火山性地震が頻発して、データー上は噴火がすでに始まっている。
待っている総理大臣の血圧が上がっていく。
科学者のコンピューターでは火山の地熱が上がっていく。
だが、数値がマックスになってもどの火山は噴火しなかった。
火山学者はとうとう「火山は噴火しませんでした。国民の混乱もありません」と結論づけたその瞬間・・・。
「この嘘つきの科学者ども!いったいどういうことだ、噴火はどうした、噴火はいつ起こるのだ!」
と、官邸の総理大臣が暴れ、側近の者たちが暴れる総理をなだめようとして右往左往して、科学者は責任のなすり付け合いをして、この場が大混乱におちいった。
テレビではアナウンサーが官邸の様子を告げていた。
「小さなお山の大将が噴火して、周りが混乱しております」
『噴火』
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