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『あたり』
春を間近にしてもまだ風は冷たく体は震える。しかも懐も寂しい。どうも自分には運がない気がする。さっきは犬のうんこも踏んだ。この先、何かいいことがあるような気もしない。こんな時は気分転換に占い師に見てもらって何かのきっかけを掴もう。そう思って有名な占い師に見てもらった。
「あなたは当たる運勢を持っている。今日当たるでしょう」
「当たる?当たるとは何に当たるのですか?」
「そこまでは・・・、とにかく当たります」
これで三千円を払ったが金額以上の希望をもらった。なんと言っても私は今日当たるのだ。私は意気揚々と夜の街に出た。
当たると言われて一番に思いつくものは宝くじだ。売り場のお姉さんに「さっき、占い師に見てもらったら当たると言われたんですよ」と言ってその場でわかるスクラッチクジを十枚買った。そして一枚一枚スクラッチを削っていく。
「どうでしたか?」
「全部外れました」
どうやら当たると言うのは宝くじではなかったようだ。
宝くじではないとすると他に当たるものといえば・・・、福引だ。福引がある。年度末の商店街の福引で特賞が当たるのではないか、財布の中の引換券で福引を回す。
「占い師さんに当たると言われたんですよ」
そう言いながらガラガラを回す。カランカランと玉が出た。
白・・・ポケットティッシュ。
福引でも当たらなかった。
となると一体何に当たると言うのだ。そう思った瞬間もしかしたら当たるというのはいいことではなくて、災いかもしれない。
飛んでくる石に当たるとか・・・、急に怖くなって一歩踏み出そうとした足を止めた。すると私の横を猛スピードで車が通り抜けた。
危なかった。まさしく当たるところだった。占い師は当たるから気をつけろと言いたかったのかもしれない。そうとなれば当たらないように注意深く気をつけながら家に帰るしかない。
するとこのタイミングで得意先から電話がかかってきた。
「よかったらこっちに合流しないか、みんなで鍋を食べるんだ」
大切な得意先からの誘いを無下に断るわけにはいかない。しかもその場でいい商談がまとまり、それがつまり当たりということかもしれない。
指定された店に着くと、得意先の仲のいい担当が、
「ささ、こっちへ、急に一人来れなくなったものだから、君がいてよかったよ。さぁ鍋を食べよう」と席をすすめてくれた。
外は花冷えでちょうど寒かったので鍋はありがたかった。小さな当たりだったがこうやって鍋にありつけたのだから今日は当たりだ。
「さ、さ、食ってくれ。ふぐ鍋だ」
これか、これなのか、占い師が言っていたのはこのことだったのか。私はこの鍋を食ってふぐに当たるということか。だが、得意先を前にして食べないわけにはいかない。もうこうなったらやぶれかぶれだ、どうとでもなれ。
「いただいます」
私はフグをたらふく食った。
が、結局何もなく、舌も痺れることもなく会はお開きになった。私は少々当てが外れた思いでアパートに帰ってくると冷えた体のために風呂を沸かした。
風呂に湯が溜まるまで少々時間がかかる。部屋も寒い、ストーブをつける。
占い師が言った言葉を思い出す。
「今日当たるでしょう・・・」なんだ、よく当たると評判だったのに結局外れたじゃないか。
と思いながらストーブに当たった。
『あたり』
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