11/12
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 わたしが伝えれば、彼は怪訝そうにしながらも手を机に上げる。占い師がその指に触れれば、弾かれたように肩を揺らす。引っ込めそうになった腕は、覚によって止められた。 「朝比奈さん。あなたの悩みは、何に起因する?」  カードがめくられた。ローマ数字の11を掲げたそれには、わたしでも耳にしたことがある英単語が書かれている。 「ジャスティス……。正義?」  正面を向き、厳格な面持ちで座った者。王冠と刀剣を身につけた姿は凜々しい。 「ふぅん、大アルカナね」覚はわたしの不思議そうな顔を見て、説明を付け加える。「基本のカードの一枚だ。大体の場合、カードの読み取りの主軸となる大きな要因……とでも言えば良いだろうか。朝比奈さんの場合は、やはり、コトの原因が大切らしいってわけだよ」  左手を動かして、朝比奈の指をなぞる覚は、少しばかりうれしそうだ。悪くない、なんてつぶやいてもいる。 「正義、冷静な判断か。あなた、事件について何かやましいことでもあるんじゃないですかね」朝比奈の顔色が変わるのを見て、覚はさらに笑みを深くした。「ふうん、犯人に心当たりね。だとすると、次のカードは」  開かれたのは、真ん中。顔を抱える人影が一つ描かれている。体を預けているのは、ベッドだろうか。  どちらにせよ、背景は黒いし、剣は不気味だ。また、中央の人物は今にも泣きそうで、苦しそうでもある。ーーあまり良い意味ではないのだろう。素人目でもわかるくらい、不吉だった。 「これは?」 「ソードの9だ」先に答えたのは、険しい顔をした東である。「壁に9本の剣が掛けられているだろう。だが、これは……」  言いにくそうに濁している。わたしは、自分の直感が正しかったことを悟った。 「未来に関しては、特によろしくないな。逆位置なら、良かったものを」覚は頬杖をついた。「なるほど、このまま行くと朝比奈さんは絶望にくれるわけだ。おまけに、理解者を失う……。あなたにとって、最大の理解者は?」  首を傾け、覚は朝比奈の目をのぞき込んだ。たじろぐ男に微笑みかけるその様は、まさに悪魔。 「へぇ、お母さんか。可愛いね」  特にカードをめくったわけでもない。だが、正解だったのだろう。朝比奈の顔がみるみる引きつっていく。 「覚さん、人の心でも読めるんですか」わたしは訊いた。「さっきから、大正解ばかり。当たるって言うのは、あながち自称でもないんですね」 「心外だな。僕は嘘が嫌いなんだよ。だから、不必要な虚偽の申請はしないよう努めている」  覚は心底嫌そうに言って、カードをめくる。アドバイス位置。 「なんだか、平和的なカードですね」海をバックに微笑む少年を見て、わたしは思わず笑いを零す。「でも、特に数字はありませんね。そんなに大事ではないんでしょうか」 「カップのペイジ。小アルカナだが、今の朝比奈さんにとっては、アドバイスカードで、とても大切だろう。だが、まぁ……単純。広い心の象徴、あくびが出るほど良い意味だよ」先ほどまでとは一転、覚はたいそうつまらなそうであった。「すべてを話せば、物事は万事解決。僕の仕事はここで終わるし、朝比奈さんは悪夢から解放される。大団円だ。ーーどうだろう。何もかも打ち明ける気にはならないでしょうか」  朝比奈から離れる指。何か言いたげな東を制し、覚は瞳を揺らす男を見つめていた。いつまでも待とう、そんな優しいスタンスで。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!