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翌週、風邪だと嘘を言い、一度も袖に手を通してなかったリクルートスーツに身を包み市役所の面接に向かう。
総合受付に説明されて行かされたのは、市役所の一番奥の倉庫みたいな部屋だった。
「本当に職員? まさか職員じゃなくて掃除のオバさんだったりして? 見間違えたのかなぁ? まあそれでも40万は美味しいけど」
ノックをして応答があり、入室を許可されドアを開ける。
6畳程の殺風景な部屋に、机が1つドアの方を向いて在り、そこにオジサンが座っていた。白髪混じりの頭をオールバックにして、鼻の下にちょび髭を生やしていた。
市役所の職員が髭など良いのか? この人は掃除夫で、やはり掃除係募集か? でも、なかなかお高価そうなスーツを着ている。
「ああ、君面接の子ね? そこに座って」
オジサンは多少ぶっきらぼうのな感じに、自分の机の前に置かれたパイプ椅子に座るように智子に言った。
「はい。失礼します」
智子はそう言って椅子に座る。
「私は土御門空治郎です。宜しく」
「乾智子です! よろしくお願いします!!」
とにかく元気良くハキハキ言った。それくらいしかアピール出来ない。
履歴書を出すように言われて、渡すと、オジサンは一通り目を通して
「お子さんいるんだね?」
「はい! まだ2歳ですけど。子供居ても平気なんですよね?」
「もちろん。子供が居たらダメとか言ったら、今の時代フルボッコだよ。20歳で中々大変でしょ? で、怪獣課だけど——」
「は?」
智子は耳を疑う。
が直ぐに理解する。
「あっ、海獣ですか? アシカとかトド?」
「そんなの、この辺にいないよ。まあ大昔にたまちゃんとか、近くを流れる荒川には居たけど、そういうのじゃない。海に獣の海獣ではなく。怪物の怪に獣の方だよ」
「ウルトラマンとかの?」
「そう! 君理解力良いね! 賢いよ! あんなに大きくはないけどね」
「怪獣課!? すいません。ちゃんと読んだつもりだったんですけど、見逃してました!?」
「いや、書いてないから。公には秘密にしてるんだ」
「ああ、そうなんですか。あれ、すぐやる課みたいなのですよね? ちょっと、お役所が洒落でやってるみたいな? 町おこし的な?」
と、無理に話しを合わせるようとするものの、でもなんで秘密なんだろうか? 疑問しか湧かない。
「まあ、そんなもんだね。すぐやる課に近いかな? 詳しくは入ってからで良いよ。誰でも出来る簡単な仕事だからね」
「はあ?」
「もし決まったら、いつから出来る?」
「来月からなら。今バイト2つ掛け持ちしてるので。まあ、すぐにでもって言うなら、土下座してでも辞めさせて貰って来ますけど!! やる気だけはあります!!」
智子は一際声を張って言ったが、本当にやる気だけしかない。やる気はあるが、緩い仕事を求むる。
「分かった。合否は追って連絡するよ」
「もう終わりですか?」
「ああ」
面接は10分も掛からなかった。
きっと落ちたなと智子は思った。
怪獣課とか楽そうで良かったのにな。秘密にしてるって事は、どうせ市のイベントで、着ぐるみとか着るくらいの仕事しかないんだろう。本物の怪獣でーすって言うんだ。そう思った。
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