遺跡と出現

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 再び警戒をし直すように深呼吸をして、ロイスはゆっくりと遺跡の中に入った。  内部はやはり真っ暗で、ロイスは光の魔術を発動させる。   『……光球(リヒト)』    すると、いくつかの発光する球体が宙に浮いて存在を(うた)う。  それそのものの色や細部を見るならば、この方法を使って周囲を照らし、肉眼で確認する方がよい。  ぼんやりと周囲が明るく照らされた。  全体の造りはおそらく一階建て。  天井は高く、内部はやはり奥に向かって広い。  その広さに、ロイスは自分が小人になったような気さえした。  見上げれば、天井に何か絵が描かれている。  ──巨人の絵か?  天井をみて、左右をみて、入ってきた入口をみて、遺跡の奥に視線を戻す。  まるで神殿のようだと、ロイスは思った。とはいえ、人間が作った神殿のような過美(かび)な装飾はなく、ただ隙間なく積みあげられた石の壁が美しい。  壁にそっと触れてみる。  ざわざわと手のひらの表面をくすぐるような、水が流れていくような感覚。魔力の感覚がした。  かつて、数多(あまた)の勇者……自称勇者たちが魔界に(おもむ)き、魔王に太刀打ちできずに負け還った。  彼らは正しく負け犬だったが、その都度(つど)いくつかの遺跡のカケラを持ち帰った。その価値を知らない者たちは役立たずと勇者たちを(ののし)ったが、のちにそこから魔界の、魔族の文明の深さが確認されたのだから素晴らしいことだった。  しかしそれ以前から、ロイスは彼らをほめてやりたいと常々思っていた。  なぜなら、その遺跡のカケラには、魔界の魔力がこもっていたからだ。  それだけで、魔界の魔力の研究、古い魔術の残影(ざんえい)の研究、魔界を構築する物質の研究。魔力を豊富に含んだ物質の耐久度等の性質の研究。  ともかく様々な研究に使える希少なものと言えた。  ──だが……。  ロイスがそれらを手にすることは難しかった。たとえできても時間がたちすぎてほとんどただの石屑(いしくず)になってしまっていた。   「もったいない」    思わずつぶやく。  無能な金持ちどもが。価値も知らないくせに魔術師には渡したがらなかったのだ。    でも今、目の前に、カケラではなく本体がある。    ロイスはひたすらに魔力の流れを手のひらで感じ続けた。  しばらくそうしていたが、ロイスはやがて深く呼吸を繰り返すと、遺跡の奥に目を向けた。    ──この先に、何があるんだろうか……。  期待を胸に、ロイスは遺跡の奥へと歩み始めた。
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