逃亡と祭壇

1/5
前へ
/21ページ
次へ

逃亡と祭壇

「はあ!?」  ロイスは間抜けにも声をあげてしまった。  それほどの驚き。  そこにいたのはいわゆるゴーレム。  石でできた動く怪物で、人形。  それが、アーチの向こうから身をかがめて、こちらを覗き込んでいた。  屈んで、このサイズ。  ──でかい……!  思わず叫びそうになる。  冷や汗が額を伝った。  見たこともない。これほどに大きなゴーレムは。    手には棍棒。  ロイスの胴回りの、これまた三倍はありそうな太さの棍棒だ。    ロイスは無意識のうちに、必死で声を押し殺していた。  音を出さないからと言ってゴーレムを退けるわけではない。    ゴーレムというのはその多くが無機物を操る魔術によって動く人形。  基本的に簡単な命令によって動き、複雑な命令を与えると、誤作動を起こす。  そういう代物だ。  それを考えると、簡単な行動しかとれない。はずだ。  あらゆる感覚も薄い。  視力も嗅覚(きゅうかく)も触覚も。しかし全くないとも断言はできない。  ──目は、ない。が、耳が彫られてる……となると。  声には反応するようになっているかもしれない。その可能性が否定できない以上、声を出すのを(こら)えるしかなかった。  しかし──。  ブンッと風切り音がして、ゴーレムが棍棒を振り上げた。腰をかがめて、こちらを(のぞ)いた無理な姿勢から行われる、破壊の予備動作。  目を()くロイスに構わず、棍棒は躊躇(ちゅうちょ)なくロイスに向かって振り下ろされた。  アーチの縁を容赦(ようしゃ)なく破壊し、その瓦礫(がれき)をふき飛ばしながら。  ロイスは咄嗟(とっさ)にうしろに飛び退った。   「──っ!」  受け身をとって転がる。  それから顔を上げて愕然(がくぜん)とした。 「──は……」  棍棒の直撃をうけたアーチのフチはごっそりと石が削られ、床は半径一メートル以上の円状に陥没(かんぼつ)している。  ──こんなもん、あたったら、即死だ!  想像しただけで背筋に嫌な汗が流れる。  ロイスはゴーレムに視線を戻す。とほぼ同時に、そのゴーレムがこちらを()た。  びくりと僅かに肩が跳ねる。  それすらみっともないと叱咤(しった)して、ロイスは相手を見据えた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加