逃亡と祭壇

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 ──ゴーレムは彫刻。ないものはない。目がないなら視力はあるはずがない。なのに場所を完全に把握している。ということは……。  魔力だ。    魔力を感知し動いている。  魔力とはいわば大気の一部。魔術師とはそれを呼吸する生き物であり、体に蓄えることができる存在。  このゴーレムは、魔力濃度が高い魔界にあって、魔力を使って動いている物体、あるいは魔力の濃度が高いものを感知しているのだ。  ロイスは息を吐いた。  今更声を押し殺しても意味はない。   「感知能力の優秀なゴーレムだな……」    魔力を消せばいいと言いたいところだが、残念ながらそれは不可能。呼吸するなとは言われても無理だ。  ロイスはゴーレムの動きが(にぶ)いことを確認し、部屋の角に向かって走って移動した。  ゴーレムが鈍い動きでこちらに視線を向ける寸前。今度は転がるようにゴーレムの足元をぬけ、部屋を出る。  間一髪、部屋を抜け出したロイスは、そのまま咄嗟(とっさ)に右に曲がった。  これも(かん)だが、とにかく今は迷っている余裕はない。  数秒後、背後から聞こえたのは巨大な破壊音。  そして規則正しい轟音(ごうおん)、つまり足音。  後ろからゴーレムが追いかけてくる。体格差を考えれれば、間違いなく逃げるのは不可能。  ──この遺跡、無駄にでかいのはこいつがいるからか!  どこを見てもゴーレムが通れないような狭い空間がないのだ。  さっきの部屋以外。   「っ誘い込まれたってことだな」    落ち着いた声音を(よそお)って、ロイスは呟きながら走る。  鈍い音を立ててゴーレムが追ってくる。正直言って、振り向いて確認した目測よりも近くにいるような気がしてならない。  ロイスは悲鳴を上げたいのを必死に抑えて走り続けた。
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