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「さっさとしろ! 魔術師!」
暗を裂く大声が響き渡った。
周囲は巨木に覆われ、立派な根が隆起し、あちこち高さの異なる草が大地を覆う。
暗い暗い、じめじめとした魔界の森。
その森で、地を割る音が何度も轟いている。
あちこち地面はえぐれ、その度に砂塵が舞い、木の葉が散った。
土煙の中に、鋭い爪と異常な腕力で地面をえぐった一匹の魔物がいた。
魔物は倒しそこねた一人の青年を、そのぎょろりとして濁った目玉に写し、金切り声をあげる。
ヨダレを振りまきながら、青年に向かって突進していく魔物。
迎え撃つ青年は木を背にして剣を構えた。
が、衝突する直前、見えない壁にぶつかったかのように魔物は吹き飛ばされていた。
壁に守られた形になった青年は、魔物がちらした砂に顔をしかめる。
青年の前には絶対的な防御が敷かれていた。どのような攻撃も跳ね返す強力な、しかし透明の壁が青年の前に築かれて、青年を守っている。
にもかかわらず、しかしそれこそが気に入らないのだろう。「くそっ」と青年は吐き捨てた。
「きゃぁっ」
突然青年の隣に、前方から少女が飛ばされてきた。
前衛の青年が後退したことで、敵の攻撃を食らったのだろう。後衛に徹していたはずの茶髪の少女は、青年のすぐ横に投げ出されるように転がった。
少女はなんとか受け身った。なんとかふらつきながら立ち上がる。そこに先ほどと同じ姿の魔物が迫ってきていた。
木の根をうまくかわしながらやってくる魔物。
「どけ! エスター!」
咄嗟に少女の前に出た青年が、魔物を剣で受け止める──が受けとめきれない。
勢いを殺しきれず、青年と少女は共に木と木の間をすり抜けて、後方に吹き飛んだ。
「ぐっ!」
逃した獲物に向かって突進する魔物。
体制を立て直そうとする青年だが、しびれた両手がそれを許さない。
魔物の鋭い爪が青年を切り裂こうとしたその次の瞬間、魔物は見えない壁に衝突して、十数メートル先まで吹き飛んでいた。
その光景を目の当たりにして、青年は呆然と立ち尽くす。そしてすぐに、その端正な顔を怒りに満ちた表情に変えて叫んだ。
「遅い! もっと早く防御できないのか!」
言葉を受けて、一人の青年が後方から現れた。
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