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闇の中から現れた青年の右手には光る球体。眩しく光るそれは他にもいくつか浮遊して、周囲を照らしていた。
青年の姿は黒い防具に、黒い外套。
闇に紛れる全身黒の外見は魔術師特有の服装といえるが、その髪は夕焼け色をしていて、ひどく目立つ。
それゆえに、青年魔術師は普段は外套のフードをかぶっている。しかし今はそのフードを取っ払って、風になびかせるままにしていた。
「守ってやっただろ。勇者なら自分でなんとかしろ」
闇に紛れる魔術師が囁くように答える。
「なんだと⁉︎」
「お、落ち着いて勇者様! 今はそれどころじゃ……」
「うるさい!」
隣でいさめる少女の言葉に、剣を持った青年──勇者は怒鳴り返す。
しかし実際、口論中だからといって、魔物たちは猶予を与えてはくれない。
勇者と少女の頭上。木の上から、魔物が二人に襲いかかった。
「勇者様っ!」
少女が叫ぶ。
「っ!」
あわや、というところ。
魔物が勇者の頭上から姿を消した。
数瞬の後、魔物は近くの木に激突して体液を撒き散らし、沈黙する。
魔物を目で追って、冷や汗をそのままに勇者は再び怒鳴った。
「このっ! またお前は! 魔術の発動が遅いんだよ!」
「悪かったな。遅くて」
魔術師は冷静に言葉を返して、視線を前方に向けた。
光を捉える瞳は鮮やかな琥珀色である。
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