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彼の視線の先にいるのは、キメラと呼ばれる魔物の一種たち。
浮遊する光源に照らされて、姿が浮き彫りになる。
全長は二メートルはあるだろか。
体色は鈍い黄土色。形は人型のそれに近い二足歩行だが、頭部には山羊の角があり、尾は獅子によく似ている。体毛は薄く地肌が見えており、浮き上がる筋肉は隆起して逞しい。
その数、およそ数十匹。
わらわらと音がしそうな勢いで集まってくる。
一匹は大したことはないと魔術師は判断していたが、しかし数が多いのは面倒だ。そう思って舌打ちしたところ、勇者に睨まれる。
お前にしたんじゃない。そんな思いで、魔術師は片手を振った。
勇者もまた舌打ちをしかえす。まるで子供だ。と、魔術師が呆れる前で勇者が両手剣を上段に構えた。
「もういい。一掃する。今度はちゃんと俺を守れよ、ロイス」
真剣な表情で勇者が言った。
命令口調にイラついて、それでも魔術師──ロイスは無言で右手を前に掲げた。
同時に、勇者の周囲に透明な球体が出現する。
ロイスがはった防御魔術の繭。それに満足したように頷く勇者に、背後からロイスは小言を漏らした。
「温存しろよ。大技で消耗したら元も子もない」
が、それに耳を貸す勇者でもなかった。
「行くぞっ」
勇者が叫ぶ。
剣に収束していく光。
聖剣の力。
それは巨大な光の柱となって、聳え立った。
黒い艷やかな髪をゆらし、宝石のような緑色の瞳をきらめかせ、勇者は笑う。
そして、剣は勢い良く振り下ろされた。
ほとばしる閃光。
地響きに似た轟音。
そして襲いかかる衝撃。
砂が巻き上げられ、ロイスたちに迫りくる。
それをロイスは勇者にしたのと同じ結界を自らにはってやり過ごす。
砂塵で視界が奪われるほどの威力。
ロイスは感嘆するでもなく、ただ舌打ちをした。
──まったく……最悪だこいつ。
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