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喧嘩と苛立
砂埃は晴れ、わずかな風が周囲を漂うだけになった頃、剣を引っさげたままの勇者が振り返った。
「こうすればいいことだったな」
自信たっぷりな口調で、ニッと笑う。
ロイスは据わった目で勇者を睨んだ。
──何も良くない。派手にやりすぎだろう。
周囲にはキメラの残骸が、悲惨にも紫の血を飛び散らせて転がっていた。
しかしそれだけではない。地面はえぐれ、木々は薙ぎ倒され、見るも無残な状況だ。
聖剣の力は大技が多い。
そうは言っても、派手にやらかしてくれたな。と、ロイスはため息を吐き出した。
「何度も言ってるが……」
そう前置きして、ロイスは勇者に近づいた。
説教をするつもりはなかったが、流石に見過ごせない。
「派手な攻撃はやめた方がいいぞ」
「一掃できたんだからいいだろ」
勇者は素知らぬ顔をする。
勇者の背後から少し離れて戦っていた前衛の少女が一人、ロイスと勇者の元に近づいてくるのが見えた。表情は、うんざりしているように見える。
ロイスの後ろからは、先ほどまで勇者の隣で戦っていた後衛の少女が近づいてくる気配がした。
それぞの存在を感じながら、ロイスは勇者から目を離さずにため息を吐く。
「よくない。もっと慎重になってくれないと……」
──これでは消耗しただけだ。
そう続けようとしたロイスだったが、唐突に勇者に胸ぐらを掴み上げられ、目を瞬かせた。
勇者の目がついと細められ、ロイスを睨みつける。
「先を急いで欲しかったんじゃなーのかよ、ロイス」
「……死に急げと言ったつもりはないぞ。レイ」
服をちぎらんばかりの力で掴まれ、ロイスも剣呑に目を細めて唸るように言った。
「だれが死に急いでるってんだよ?」
「そうとしか見えないからそう言っている。派手な技を使えば、魔物に見つかりやすくなるし、消耗だってする。死に急いでると言って何が悪い」
「お前が急げって言ったんだろ!」
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