魔術師ロイスの受難

追放と離脱

　怒鳴る勇者とため息まじりに喧嘩する魔術師。それをたしなめる少女二人。その構図はいつものこと。

　魔界に来る前も、そして来てからも、二人の主張は合うことはなく、喧嘩ばかり。
　それらの言い争いで勝利するのは、たいがい粘(ねば)るレイの方であった。ロイスが面倒臭がるからではあるのだが。
　いつも間(あいだ)を取り持とうとする少女は、できれば波風をたてたくないのだろう。もっといえば、勇者の機嫌を損(そこ)ねたくない。
　勇者というのはあらゆる後押しを受けている。権力も武力も人気もある。敵に回すのにこれほど面倒な人間もそうはいない。

　だから、わからないではない。
　二人の少女が、頭ではわかっていても勇者の味方をする気持ちが、わからないではないのだ。

　ロイスはしばらく黙りこくっていたが、ふーっと息を吐き出して気持ちを入れ替えることにした。

　こんなに疲労困憊で、歴代最強と名高い魔王を倒そうなどと、お笑い種にもほどがある。とは思うが、しかし過ぎたことを今更言っても仕方ない。
　ともかく、ここから先、気をつけてくれればいいのだ。

「派手な攻撃は控えて、なるべく早く先に進むべきだ。そういう方針で動いてくれなければ、困る」

　ため息まじりにロイスは言う。
　わかった。という返事がくればいいのに。そう思ったロイスだったが、残念ながらこれもうまくいかない。

「なにが困る」

　レイが横柄に言った。
　ロイスは眉間を抑える。

「今の今、説明したばかりだと思うんだが？」

「消耗した状態で魔王と戦わないように。だろ。じゃあ休めばいいじゃねーか」

　軽い調子でレイが言う。

「そんな簡単な話じゃない。お前が休んでいる間も、俺は魔術を解けない。俺に余裕がなくなったら、お前が困るだろう。という話をしているんだ」

　大気に流れる魔力と呼ばれる力。それはすべての生き物の内側をめぐる力の源。
　しかし魔界はその魔力濃度が人間界と違って濃く、体の害になる。
　普通に立っているだけでも、酸欠のような状態に成ってしまったりする。

　ならばどうやって行動するか。

　それを可能にしているのが、ロイスの魔術だった。
　ロイスは常に魔術を展開しているということで、だからレイたちは動けているということで。
　それはとてもロイスを消耗させる。