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「ずっとこうしていられるわけじゃない。ほかの有象無象どもを相手にしている余裕は俺にはないんだよ」
そこまでいったところで、ロイスの言葉を遮るように、レイが剣を地面に突き刺した。
そしてロイスを指さして怒鳴った。
「つまり。そうやって自分の無能を俺のせいにするんだな」
「……あ?」
なんだと? とロイスはキレる寸前の頭で思う。
──俺がいなきゃ魔界で活動もできやしないのに、何を言っているんだこいつは。
「こっちはお前たちを魔界で活動できるように……」
「もういい。言い訳は聞きたくねー。もともとお前は魔界にくための転移魔術のために仲間にしただけなんだ。それが、防御しかできない。……攻撃に参加もしない! 役立たずのくせに! いちいち俺のやることに指図するんじゃねー! 俺の言うことが聞けないなら、お前とはもうこれっきりだ、でていけ!」
再びロイスの言葉を遮ってのレイの妄言。
ぎょっとしたのは、エスターとミランダだ。
もちろんロイスも驚いたが、いずれこんな時が来る気はしていたのである。
ただその一言を、勇者が口にする度胸があるとも思っていなかったのだが……。
度胸ではない。
頭に血が登って、口から飛び出した。そんなところだ。
「本気か?」
「本気さ!」
「いいんだな? 本当に」
「くどい! さっさと出ていけ!」
念を押して尋ねたロイスをレイは煙たそうに追い払おうとした。
──やっぱりただのバカだったんだな。
ロイスは大きく、わざとらしく、はーっと息を吐き出すと、黒い外套を翻す。
同時に浮遊していた全ての光源が消え、闇が周囲を包んだ。
「わかった。じゃあな」
考え直してくれと、すがりつく気はなかった。
もともと仲間だったわけでもない。
レイのいうように、確かにロイスが勇者の旅について行ったのは、行く先が同じだったからだ。
ついてきてほしいと勇者の仲間である少女二人にしつこく頼まれて、辟易としてたいということも大きい。断るのも面倒で、それで承諾してしまったようなもの。いや、正直に言えば、放って置けなかった。それだけだ。
──ちょっとした気まぐれだ。
考えてみれば、魔王退治に協力してくれと頼まれたわけでもない。彼らを魔界に連れてきた時点で、もうあちらとしても用済みなのだろう。
──魔界での活動が制限されることに関しては頭からすっぽり抜け落ちているようだし。
そんな関係だ。
出会ってからそれほど時間がたったわけでもなく、彼らに愛着もそれほどない。
それでも、なんともあっけない別れだが。
──もうどうなっても知らん。
ロイスは内心でそう吐き捨てて、一行から遠ざかる。その横顔は愉快げに微笑んでいたが、暗闇の中で、レイ達にはそれはみえなかった。
エスターかミランダか、どちらかが呼び止める声が聞こえたが、ロイスは振り返らない。
闇に身を隠すように、魔術師はその場をしずかに離れたのだった。
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