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「マリアンナ! あなた一度どころか二度までも!」
クローディアはガバッと立ち上がると、ぼきりと手元の扇をへし折った。ひええ。馬鹿力。
「もうあなたとお友達でいるのは止めですわ! わたくしの視界から消えて頂戴!」
その叫び声がしん、とした教室に響く。……しまった、やりすぎた!? というかこらえ性がなさ過ぎでしょう、この我が儘娘!
「……はい」
私はなんとかそう答えて教室の隅に移動した。そうして、針のような視線を受けて残りの授業をうけた。
それから、私はクローディアへの接触が出来なくなった。視線を合わすどころかそちらを向いただけで取り巻きの妨害にあう。そのうち何もしなくても教科書をボロボロにされたり、歩いていたら水をかけられたりした。
「では皆さん、これから一緒に学ぶ留学生のアイリ・ルオノヴァーラです。仲良くな」
そうこうしているうちにあの留学生、いずれクローディアから王子を奪うアイリが転校してきた。案の定、クローディアはアイリをいじめ抜いた。
「クローディア・ジラルディエール侯爵令嬢。そなたを国家反逆罪の罪にて処刑する」
「認めませんわ! 私は無罪です!」
――クローディアはまた処刑された。
***
「はあ……」
私は処刑イベントからの『リセット』そして巻き戻ってからのクローディアとの出会いを終えてまた自室で反省会をしていた。
「少し強引過ぎたかしら」
お友達になってから日が浅く、信頼関係も築けていないのに目につくところばかり注意したのが悪かった気がする。
「じゃあ、ある程度見逃して……それから少しずつ矯正していかないと、だ」
焦っちゃいけない。アイリが現われるまでまだ時間はあるし、それから断罪イベントまでも日がある。私は窓の外から月を見上げた。
「ふう……もうお腹いっぱいですわ」
クローディアがご飯を残して、周りがお腹を減らしてても我慢。
「大変めずらしいものをお見せ戴き感激しました。本日はおまねきいだたきありがとうございます」
分かりきった簡単な問題を彼女がドヤ顔で答えても我慢我慢。そんな日々が続いていく。何回も彼女の言動が分かっている私はやがて取り巻きの中の序列を上げていった。
「ねぇ、マリアンナ。このチョコレート分けてあげるわ。実家から送ってきたの」
「まあ、ありがとうございますクローディア様」
今ではお茶会で隣に座れるくらい親しくなった。最高級のチョコレートは文句なしに美味しいです。
「マリアンナ。私少しあなたの事を調べましたの」
「えっ?」
「……先月、あなたの家の貿易船が二隻も嵐に巻き込まれたそうじゃありませんの」
「あ……ああ……」
そうなのだ。乗組員は漂流したけど全員無事だった。ただし積み荷は駄目になってしまって今、私の実家は汲々としているのだ。
「我がジラルディエール侯爵家が後ろ盾になりますわ。銀行に相談なさいな」
「あ、ありがとうございます……」
そう、一度懐に入ってしまえばクローディアはとても面倒見が良いのだ。だけどこれが後々彼女が処刑された時、うちの実家が関与を疑われる原因になる。
「……それでは、わたくしは部屋に戻りますわね」
クローディアはお茶会をしていたサロンを出た。私は慌ててその後を追った。しかし……。
「クローディア様?」
そこには廊下で倒れているクローディアがいた。
「クローディア様!!」
私は彼女に駆け寄って抱き上げた。まるで羽根のように軽い。
「う……マリアンナ……?」
クローディアは意識がもうろうとしているようだ。そこで私は彼女を抱き上げた。私が抱き上げられるくらい彼女は軽い。
「大変!」
私はサロンに近い自分の部屋に彼女を連れ帰った。
「失礼します。衣服を緩めます」
私は彼女のドレスを脱がせた。……すると、ドレスの下から信じられないものが出てきた。
「これ……金属製?」
なんと彼女は鋼鉄のコルセットを身につけていたのだ。あわててそれを外すと、クローディアは大きく息をついた。
「ふう……」
「何しているんです!」
思わず私は彼女を怒鳴りつけた。
「どうしてこんなものをつけてたんですか、これじゃ苦しくてたまらないでしょう!」
今、私がつけているくじらの骨と布のコルセットでもけっこう苦しいのに。
「……スタイルが……崩れるから……」
「は?」
「わたくしは誰より美しくいないと……」
私は呆れと怒りがこみ上げてきた。そりゃこんなもので体を締め付けていたらご飯も食べれないしイライラもするわ!
「いいですか、クローディア様! クローディア様はいずれ国母となられるのです。健やかなお世継ぎを生まないといけないのにこれでは体を壊してしまいます!」
「マリアンナ、泣いているの……?」
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