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彼はマリアンナの幼馴染みだ。黒髪に茶色い目をしたモブ令嬢にふさわしい程々のハンサム。男爵家の生まれで家格も同じ位。小さい頃からいつも一緒だった……という設定。
「悩みがあるなら僕に言ってくれよ」
彼はそう言って私の手を取る。その手からは心配な気持ちと私への慈しみが伝わってくるけれど……。
処刑されるクローディアを助けなくてはならない、だなんてとても相談出来ることではない。
「ううん、なんでもないわ」
「そうか?」
私はそう答えた。彼はその答えに残念そうにしている。
彼の思いに私は気づいている。私も彼のことは好きだ。だけど……。
クローディアの問題が片付くまで、その思いに答えることはできない。
そんな余裕は無いし、下手をすればギルバートまで処罰の対象になりかねないからだ。
(ごめん、ギルバート……)
私はそっと心の中で呟いた。
***
それから私は何度もクローディアを救うチャレンジをした。彼女のペットを助けて信頼関係をさらに高めたり、逆に王子と私が仲良くしてみたり。その度失敗してクローディアは処刑される。
繰り返される処刑のループ……だが少しだけ変化があった。ほんの少しだが処刑からの巻き戻りをする度にクローディアは素直になっていっている気がする。
「マリアンナ! オーウェン殿下と親しくしすぎではないですの?」
何度か聞いたこの台詞。以前は顔を怒りで真っ赤にしながら言っていた。いまはどこか悲しそうだ。
「いえ……それは誤解です」
「嘘おっしゃい!」
「私が好きなのは……幼馴染みのギルバートです。私はただ王子にアイラが近づかないようにしているだけです」
「まあ! マリアンナはギルバートが好きなの!?」
クローディアのサファイアの様な瞳が大きく見開かれる。
「……ありがとう、相談してくれて」
「……え?」
ど、どうしてそうなっちゃうの? 相談したつもりはないのに!
私の戸惑いはまったく彼女に伝わらなかった。
それからというもの、ピクニックや乗馬大会ややたら豪華なお芝居ごっこをクローディアは催しては、私とギルバートをくっつけようとしてくる。
……ちょっと! アイラの魔の手がどんどん迫ってるんだってば!
私はアイラを排除しようとやっきになった。決して暴力はいけない。ただただ王子と二人きりにならないように……邪魔をして邪魔をして……。
何度も妨害を続けたある日のことだった。
学園の裏庭で、アイラを監視していた私は逆にアイラに見つかってしまった。
「ここなら人気がないですね」
「アイラ……なにを……」
正ヒロインとは思えない凶悪な顔をして微笑むアイラ。
あの地味でちょっととぼけた彼女の姿からは考えられない。
「ちょっと貴女邪魔なので……消えてもらいます」
彼女がパチンと指を鳴らすと、草むらから屈強な男達が飛び出してきた。
「やっておしまい!」
「きゃあああああ!!」
男達に取り押さえられ、悲鳴をあげる私。
「なにをしているんだ!」
その時である。物陰からギルバートが飛び出してきた。彼は男達に銃を突きつけた。
「マリアンナを離せ!!」
「けっ、こっちには人質がいるんだぜ。貴族のぼうやに銃なんてぶっぱなせるかよ……」
暴漢の一人は馬鹿にしたように笑う。そんな男の肩をギルバートは見事に打ち抜いた。
「ぎゃあああっ!」
すると私を取り押さえていた男達は分が悪いとみたか散り散りに逃げ出していった。
後に残されたのは青ざめた顔のアイラだけ。
「アイラ……よくも……!」
この事がきっかけでアイラは学園裁判にかけられた。
なんと、この調べによって彼女は隣国のスパイであることが分かった。
平和なこの国を乱す為、王位継承者のオーウェン王子と婚約者のクローディアの中を引っかき回し、あわよくば王妃におさまるのが目的だったのだ。
アイラは遠い島にある塔に生涯幽閉となった。そしてようやく平和が訪れた。
もう、クローディアは処刑されない。
「ギルバート……あの時はありがとう」
ことが終わって、私が改めてギルバートにお礼をいった。
「あそこに貴方が居なければ、私はどうなっていたか……」
「君の行動が心配で後をつけていたんだ。君はアイラの正体に気付いていたんだね」
「え、ええ……何かおかしいと思って」
本当はちょっと違うけどそういうことにしておこう。
「でも、もうこんな危ないことはしないでくれよ……僕は君を愛してるんだ」
「ええ、私も……」
そして、私にも幸せがやってきたりした。
おわり
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