何度も殺される悪役令嬢と何度もリセットして助けるモブ令嬢

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 「今度はキャラ崩壊も辞さない覚悟で彼女の言動を正さなきゃ」  そこまで必死になるのには理由がある。近しい人間が処刑される胸くそ悪さももちろんあるが、私は彼女に恩があるのだ。  一度、私の実家の事業が失敗した時に彼女は援助してくれた。それにあの処刑の後、とりまきの人間に次々と火の粉がかかっていった。私もその一人でお家断絶を言い渡された。  名ありモブへと昇格した弊害がこれだ。……冗談じゃない! 「……そう……クローディアを素直ないい子に彼女を調教して処刑を回避しないと」  そうしないと自分も危うい。だから今度は彼女に私は積極的に介入する。再び悲劇を繰り返さないために。 「何度処刑されても、私が何度でも助けます。……クローディア」  私は決意を新たにしてその日は眠りに落ちた。 ***  ――翌日。取り巻き達の朝は早い。私は取り巻き専用に用意されたミーティングルームで朝の打ち合わせをしていた。我々はクローディアの侍女頭から手に入れた情報を共有していた。私は手渡された目もを読み上げる。 「本日のクローディア様のお召し物はお気に入りの赤ではなく青です」 「まあ……」  取り巻きのセーラの顔色がみるみる青ざめる。彼女の今日のドレスは青だ。 「セーラ、即刻着替えを」 「はいっ」 「そして髪型はいつものようにハーフアップの巻き髪です」 「ほっ……」  このようにクローディアと服や髪型がかぶらないように朝から努力をしているのだ。もし被ったらクローディアの機嫌は一日中悪くなる。嫌な習慣ね。  セーラが大急ぎで着替えたのを確認して、我々取り巻きは食堂へと向かった。そこの特等席についてクローディアが現われるのを待つ。 「ごきげんよう、みなさん」 「おはようございます、クローディア様」  私達は彼女の姿を認めると、一斉に立って会釈をした。 「座って。さあいただきましょう」  やっと朝食がはじまった。……と思ったら一口二口食べたところでクローディアはフォークを置いてしまう。 「ふう……もうお腹いっぱいですわ」  するとセーラもフォークを置く。 「……私もお腹いっぱいです」 「……私もです」  取り巻きはそれぞれフォークを置いた。ああまたこのパターンか。私は少しうんざりした。だいたいお腹いっぱいなんてみんな嘘で、あとで隠れてお菓子を食べているのだ。  ここで一緒にフォークを置いてはいけない。また同じ事になる。 「クローディア様、でもお残しはいけませんよ。用意してくれた方に失礼では」 「なっ……マリアンナ!」  思わぬ私の反抗にクローディアは怒りのあまりプルプルと震えている。私は彼女に落ち着いた調子で答えた。 「それにこの朝食の材料となった小麦も肉も国民の作った作物からできたものです。いずれ王妃となられるクローディア様なら当然ご存じでしょうけど」 「……もちろんですわ。少々、口に合わなくても食べるのが努めというもの」  クローディアは額に青すじを浮かべながら残りの朝食を食べた。顔面蒼白になってその様子を窺っていた他の取り巻き達も、クローディアに倣って朝食を食べた。 (セーフ……)  私は内心ほっとしながら朝食を食べ終わり、クローディア達と共に教室へ向かう。ここにも最前列にクローディアの為の特等席があって、私達はそれの周りに座るのだ。とにかく取り巻きになったばかりの私はちょっと離れた席。 「マリアンナ、あなたはお友達になったばかりだから分からないみたいだから、さっきのは見逃してあげたのよ。分かってらっしゃるわね」 「……はい」  本当にギリギリセーフだったみたいだ。でもこれはクローディアの為なのだ。そうしないと彼女はまた処刑されてしまう。  私はごくんと言葉を飲み込んで頷いた。クローディアはいかにも意地悪そうに口の端を吊り上げて微笑むと、自分の席へと戻った。 「――では、この一文が分かるもの。居るかね」  先生がこの国の隣に位置する国の言語、ルンブルク語の単文を黒板に書いた。あちらとは外交関係が深く、私達はそれを覚える必要がある。だけど誰も手をあげない。  何故かというと……クローディアが手を挙げていないからだ。  生徒達の注目が集まる中、彼女はゆったりとして動作で手をあげた。 「それでは……マリアンナ」  先生の指名の声に教室がどよっとざわめいた。クローディアがゆっくり手を挙げている間に私がさっと手を挙げたからだ。 「大変めずらしいものをお見せ戴き感激しました。本日はおまねきいだたきありがとうございます」 「……よろしい。正解だ」  またも教室がどよめく。そう、いつもはここで颯爽とクローディアが答え、拍手喝采が起こるのが常なのだ。だけど、もう何回目かわからない授業を受けている私にはこんな問題なんでもない。
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