プロローグ

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プロローグ

「はぁ、、はぁ、、はぁ、、はぁ」 運動部に所属していても、朝走るのは辛いものだ。昼間なら良いという訳ではないが。 朝練には行けず、学校にも遅刻してしまったら監督に何をさせられるか想像するまでもない。 昨日徹夜してアニメを見たのがいけなかったのかもしれない。中学ではこんなに朝に弱くなかったのに。これが高校生活の重圧なのだろうか。入学して早々に遅刻を繰り返すのは頂けないな。 だが今回は俺に分があるようだ。あと2回曲がれば学校はすぐそこだ。それまで走れる体力は残っている。 しかし、先程から何か足元に違和感を感じる。 「ちっっ」 1週間前に買った靴の紐がほどけたのだ。関係ない話だが、新品の靴は紐をきつく縛るのを躊躇ってしまうのは何故なんだろう。新品なぶんに靴紐が汚れるのは気分を害した。しかし今はそんな事はいってられない。遅刻魔の異名を返上し、クラスの真面目な女子からの支持を少しでも回復しなければならない。だから僕は見なかったことにする。もちろん真面目じゃない女子からの熱い視線がある訳ではないのだが。 そんな時だ。 「いててて」 凄まじい衝撃が走り、視界がチカチカする。何がおこったのか分からないが頭とお尻が痛いこと事はわかる。 上体を起こすと、目の前には女性が倒れていた。どうやらおれは人とぶつかったらしい。 制服を見るに俺と同じ高校のようだ。 「痛ったーーーーいっ」 女の子はそう叫びながら、落とした食パンを悲しそうに眺めていた。見ない顔だった。まあ高校は人が多いからそういうこともある。 「ご、ごめん。大丈夫?」 しかしなんてこった。今どき食パンを銜えた女の子がこの世にいるのか、さらに道でばったりぶつかるなんて、テンプレすぎて逆に珍しいぞ。 「う、うん。大丈夫、こっちこそごめんねー、食パンのことは...…気にしないで。」 少し、いやものすごく切なそうだ。 「そういう訳にはいかない。俺の気がすまないんだ。何か奢らせてくれ」 さすがに、あんなに悲しそうにされるとなんともいたたまれない。ちなみに俺はあまり、朝は食欲がある方ではないから今日も食べてはいない。ついでに俺の分も買っていこうか。 「いやほんとに気にしないで! って、やばい40分に間に合わなくなっちゃう!」 しまった、完全に忘れていた。俺はあまりにも少女漫画的展開に時間の流れを忘れていた。今から走っても間に合わないだろうな。 チャイムが鳴る。怒号が鳴る。 ② 「よっ、これで何回目の遅刻だ?俺はお前を不良だなんて思ってないが、周りはだらしない奴だと思っているぞ。だらしないってことはヤンキーと同じくらい人気があるんだぜ。」 「その言い方は、ヤンキーに人気があるみたいじゃないか。まあでも、いいじゃねーか、需要は少なからずある。ダメ人間を見ると母性が湧いてくるっていう奴のために僕は存在しているんだから」 「立派な考えだな。少数派のために俺は生きるってか」 「それに。」 「なんだよ?」 「もう俺の物語は始まったみたいだぜ」 そうして今朝会ったばかりの彼女は俺のクラスの転校生として紹介された。 この物語の主人公は、おかしな時期に転校してきた女の子との甘酸っぱくて、ほろ苦い、そんな恋愛スポーツストーリーを繰り広げそうな男の子、ではない。それを影から支えるサブキャラの話でもない。この男を自分とは違う人間なんだと、羨ましそうに見つめる影の暗い男の子でもない。ましてやテンプレ食パン少女でもない。 冒頭の話を人づてに、しかもクラスの全く喋ったこともない女子が話をしているのを聞き耳を立てて知るような男の物語である。
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