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「……そろそろ帰ろっか。お家どこ? お姉さんが送ってあげよう!」
涙も乾き気分も落ち着いて来たら、ちょっと恥ずかしくなってきた。
照れ隠しでちょっとお姉さん風を吹かせてしまっても、まあしょうがない。
それに、こんなにかわいい子が一人で歩いてたら危ないもんね。
もしかしたら怪しい不審者だけでは無く、トンビあたりにも狙われてしまうかもしれない。もしくは「あ、うちの子です」って天界からお迎えが来てしまうかもしれない。
ありえる!
そんな妄想に憑りつかれた私はVIPの鉄壁ガードマンよろしく、周囲を警戒することに忙しい。
私がこの子を、この笑顔を守るのだ!!
なっちゃんの柔らかい手を握り、さっきよりは幾分か陽が横にずれた道を通る。
なっちゃんはなんと小学一年生。若い。この世に誕生して六年しか経っていない。オリンピックは一度しか巡っていないし、もしかしたらサンタクロースを信じているかもしれない。若い。
私も小学三年生とピチピチで若い。疲れても眠ればリセットされるし、体の細部が生き生きと生命力に溢れている。そして、今。気付いてしまったことがある。とても信じがたいことに、このピチピチ肌が少し焼けているではないか……!
かろうじて麦わら帽子はかぶっているが、肌が露出していて半袖の形に日に焼けている! 正気か!?
今は平気かもしれないが、日焼けは怖いのだ。大人になったらわかる。怖いやつだ。忘れた頃にシミ、シワ、老化を引き起こすのだ。
私は大人になったらどうなるかを知っている。
この若さってやつは取り戻せないことを、知っている……!
この野蛮な紫外線から! このピチピチの肌を守らなきゃ……!
「みほちゃん? 家ここだよ」
決意を新たに、意識を戻すと大きい日本家屋の前に着いていた。
ハッ! 送っていくはずが、送られてしまったではないか!
「……あれ? ここ品川さんのお家だ。なっちゃんは品川さんのところの子なんだね。うちは向かいの通りの大塚ってお家よ。おじいちゃんのお家に遊びに来てるの」
品川さんはここら一帯で一番大きなお家だ。たぶん地主だろう。どんな人が住んでるのかと毎年思っていたが、天使が住んでいたのか。うむ。天使を任せてもいい家だ。許す。
「!! みほちゃん、おおつかのおじいちゃんのところにいるの? またあそべる? あしたもいる?」
なっちゃんは目を輝かせ、飛びついてきた。
ブンブン尻尾が振り回されている(幻覚)
んんんんんッ
かわいすぎん????
「うん。いる。あそべる。あそぶ。うん」
「やったあ!」
と、天使な子犬の可愛さにすっかりメロメロになった私は知らなかった。
この日から、この天使にまとわりつか……なつかれることを。
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