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うちの子は反抗期ですか?
「──大ちゃん!!!」
私は勢いよく前に出した自分の足にもつれ、派手に転びながらも立ち上がり駆けた。
すっかり大きくなったけど大ちゃんだ!!!
生きてた! 生きてた!!
大ちゃんは無事だった!!!
わんわん泣きながら、大ちゃんにしがみついた。
「……誰だ」
”夫”によく似た声だった。
すっかり声変りしてる!!
「うわあああん!! 大ちゃんん!!」
嬉しくて嬉しくて抱きしめる腕に力が入る。大ちゃんは急に飛びついて来た私に驚いている。そりゃそうだ。
「……大地の知り合い?」
「……いや。知らねえ」
一緒にいたもう一人の少年も、突然の出来事に驚いている。すみません。これ、感動の再会なんです。
「きみ、大丈夫? これ使ってお落ち着いて?」
顔を上げると、眼鏡の色っぽい黒髪の男の子がハンカチで顔を拭いてくれた。優しい。
「あり、がとう……ございます……っ」
大ちゃんから離れたくなくて、されるがまま顔を拭いてもらっていると優しい男の子と私の間になっちゃんが割り込んで来た。
「転んだところ大丈夫? 見せて? 痛かったね」
いやだ! やっと会えたんだから、もう離れないぞ! と無言の抗議も虚しく、引きはがされ大きい石に乗せられた。そして、よどみない手つきでなっちゃんに傷口を消毒してもらったのだった……。
──私は小学5年生の頃、応急処置セットを持ち歩(略)
「……ところで君たちは誰なの? どこかで大地と会ったことがあるのかな?」
色っぽい眼鏡さんはこちらが落ち着くのを待って、優しく話しかけてくれた。大ちゃんは少し離れてこちらを警戒している。なぜだか二人の視線は私ではなく、隣に流れている。
「いえ、すみません。あの、知り合いに似てて……嬉しくなっちゃって、つい」
急に飛びついてすみませんでした、と謝りながら視線を隣のなっちゃんに移すと、私の手を握りながら二人を威嚇するように睨み付けていた。
ンンンッ!! 子犬が一生懸命威嚇してるみたいでかわいい!
「みほちゃん。ニヤニヤしながらこっち見ないで」
失礼な。
「あぁ、みほちゃんっていうんだね。俺は神田航貴です。あっちは上野大地。……君は弟君かな?」
「品川夏樹です。弟じゃありません」
へへへ。弟だって。
この麗しの天使様と血縁がありそうに見えます?? やだもうっ!
「みほちゃん。戻ってきて」
「あ、すみません。あの、とにかくお騒がせしてすみませんでした……」
「ううん。大丈夫だよ。大地も、ね?」
「……おう」
黒髪眼鏡の色っぽい少年……神田さんはコミュニケーション能力をが高いらしい。
大ちゃんは無愛想だな! これが反抗期ってやつかしら!
ふ、と大ちゃんの足元に目をやると、向日葵の花束が目に入った。
「──向日葵、ですか」
「ああ。ちょっとね。毎年のご挨拶に」
そっか。今日なんだ。八月十四日。あの事故の日。
私もなっちゃんも向日葵の花束に近づき、手を合わせた。
ここに私はいるけど。気分的なものだ。
大ちゃんに会えて、この記憶は本物なんだとストンと理解した。
そして、何を話すでもなく、みんなでぼーっと川を眺めた。
「──そろそろ帰ろっか」
「うん」
隣に座っていたなっちゃんが腕時計をチラリと見て立ち上がった。
「ああ。二人はバスで来たのかな?……うん、今から向かってちょうどいいね。気をつけてね」
「はい。……ありがとうございました。大地さんも、ありがとうございました」
「……おう」
二人に軽く頭を下げ、もう一回だけ最後に抱き着いていいだろうか……? と考えたところで、なっちゃんに手を引かれた。
なんだかフワフワした気分のまま帰宅の途についた。正直、どうやって帰ったのかは覚えていない。なっちゃんがおじいちゃんの家まで連れて帰ってくれたんだと思う。
──私が小学五年(略)
それから私は何日もぼーっと、いつにもましてフワフワした気分で過ごした。
いつものようになっちゃんがやってきて、なっちゃんの部屋で宿題を片付け、なっちゃんのお家の美味しいおやつを頂き、冷房の効いた部屋で惰眠を貪り……
「もうっ。みほちゃんったら!」
なんだなんだ。今日は怒(オコ)だな。オコな日なのか。かわいい顔して怒ってもかわいいだけなんだからな!
「……あの大地って人、みほちゃんの知り合いなの? だからあの場所を探してたの?」
「うーん。大ちゃ……大地さん、を探してたって言ったら探してたかなぁ……」
寝返りをうち、なっちゃんに背を向けた。
詳しくは教えられないし、適当な嘘をつきたくなくて、もうこれ以上は答えませんと意思表示だ。
「~~~~~っ! もう! みほちゃんなんて知らない!」
珍しく、今日は本当になっちゃんが怒ってる。もう知らないなんて言われてしまた。それは困る。なっちゃん無しに毎年の宿題やら充実した夏は無いのである。
あ、でも来年は受験の準備で夏期講習やるって言ってたな……
「──来年は来れないからさ、喧嘩はしたくないなぁ~」
ゴロンとなっちゃんに向き直ると、なっちゃんは表情を無くして目を見開いていた。
「なんで来年来ないの? もう来ないってこと?」
捨てられた子犬のように打ちひしがれているように……見える……。
そ、そんな悲しそうな顔をするんじゃない……!
「ううん。ほら、私、来年は中三だし、受験対策で夏期講習に行ったりするから……そう、再来年は来ると思うよ!」
「再来年……」
きゅいーんと悲しそうな鳴き声が聞こえた(幻聴)
「ん? なんだ? さみしいの? そっか~~~大好きなみほちゃんにぃ~会えなくて寂ちぃかぁ~~」
少しの気まずさと、悲しそうな顔を見ていられなくて、空気を誤魔化すように茶化してしまった。いくら慰めたくても、来年は会えないのだ。なっちゃんの頭を胸に抱きこむと一瞬体を固くしたものの、すぐ私の方に体を預けてきた。
か、かわいいやつめ。
「──さみしい。さみしくて死んじゃうかも」
「生きろ。そなたは美しい」
「ほんとに寂しいんだよ……慰めて」
なっちゃんのキラキラした明るいブラウンの目が、私の目の前にあった。
とてもきれいで、目を閉じるのも忘れて魅入った。
──唇に柔らかい感触があった。
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