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それから毎年毎年おじいちゃんの家を訪れるたび、なっちゃんはやってきた。だから、なぜ帰ってきたとわかる。
山へ行ったり、花火をしたり、祭りに行ったり、なっちゃんの家を隅から隅まで内偵したりと毎年毎年なっちゃんと充実した夏休みを過ごしていた。
そういえば、いつのことだったか雨に降られた日のこと。
びしょ濡れでしょうがなかったので、一緒にお風呂でも入るか~と誘っても頑なになっちゃんは動かなかった。
風邪をひいてはいけないからね。聖なる心で!親切心で!お風呂まで連れて行き、嫌がる天使を軽くいなし、洋服を脱がしてあげた。
……ら
「え!?なっちゃん男の子なの!?」
「今更!?」
なんと、なっちゃんは男の子だったのだ。
誘拐されるのは意外と女の子より男の子の方が多いんだよ!?と、明後日のことまで心配したり驚いたものの「まあ、お互い子どもだし。いっか」と、そのまま一緒にお風呂に入り、お昼寝までしたのだった。
お昼寝は大事。
そして、私の中でなっちゃんを守るんだという心がさらに固く、熱く、高く!なったのだ。うむ。
*
「なっちゃん。私、図書館に行きたいんだけど」
「うん! 行こう!」
うむ。かわいい。
今年、なっちゃんは小学五年生になり、もうそろそろ女の子には見えなくなってきた。
子どもの成長はオクラ並みに早い。
同じく私も中学二年生になり、もう外ではしゃぎまわるのがつらくなってきた。
もうおじいちゃんも、おばあちゃんも、ご近所さんも、通りすがりの人々も……私の重装備(日傘、サングラス、女優帽、UVカットパーカー、UVカットレギンス…等)を見て驚かなくなってきた。
なんなら最近では日傘のメーカーや日焼け止めのオススメを若奥様方に聞かれることが増えたので、ここぞとばかりに知識を披露した。将来、国内屈指の美肌県になったら私の功績だろう。みんな美の伝道師は私であると覚えておいてほしい。いつも隣にいる天使フェイスのなっちゃんではない。黒ずくめの私の方だとしっかり覚えておいてほしい。
──あの日、頭に流れてきた記憶。
あれが本当に起きたことなのか確かでは無いけれど、いまだ忘れられないでいる。
涼しい図書館に入り、いつものように過去の新聞記事を閲覧するスペースに座る。
「今日は▲県の新聞見てみようか」
なっちゃんも詳しい事情を聴かないまま協力してくれている。優しい子だ。
「川の死亡事故の記事を探しているんだよね……。いつの出来事かわかると早いんだけど」
川での事故は多い。いつ、どこで起きたものなのかがわからないと特定するのは難しかった。
やっぱりあの記憶はドラマとか映画なのかなぁ。”大ちゃん”なんていないのかな……
あの日は車で川まで行ったのよね。
赤い大きい橋から川を見て、大ちゃんがキラキラしてるって言って。
『この橋は金魚の橋だから赤いんだね』って
「──赤い橋」
「うん? ”赤い橋”?」
考え事中の独り言も、なっちゃんは聞き逃さなかった。
「うん。片側1車線で、歩道もあって、赤い鉄橋」
「やたらと詳しいね。行ったことあるの? うーん。赤い鉄橋が近くにある川はたくさんあるもんなぁ……」
「そう……だよね。”金魚の橋”はどこの橋なんだろう」
前のめりになっていた体を背もたれに預けると、古い椅子からギギッと怪しい音が鳴った。
うーんと唸り遠くを見つめる、なっちゃんの顔は今日も聖なる美しさだ。みなさん。美の伝道師はいつも隣にいる美しい彼ではありません。私です。
「──金魚。金魚って▲県の△市のマークだって聞いたことあるよ」
天啓を受けたなっちゃんはパソコンに向き直り、手を尋常じゃ無い速さで動かし始めた。最近の小学生ってしゅごい……。
「これかな? 十四年前、▲県の△市△川で水難事故。女性一名死亡だって」
ドクリ、と心臓が動いた。
古い椅子をギシギシ鳴らしながら椅子をなっちゃんの方へと近づける。息が詰まるような苦しさを覚えながら、パソコン画面を覗いた。
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二〇××年八月十四日。、▲県の△市△川にて、家族で川遊びに来ていた幼児が川に流されたところを母親が救助に入り、下流へと流された。
○県●市の上野真帆さん(享年二七歳)の遺体は下流で発見され、幼児は救助された。
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あぁ、これは「私」だ。
一瞬、あの冷たい水の中に戻った気がした。
足が絡まり、手が滑って起き上がれない。
鼻に水が入り、ツンと───
「──みほちゃん」
なっちゃんの温かい手が、私の手に熱をうつした。吸い寄せられるように、ここへと意識が戻る。
まだ少し子どもっぽい手が私の手を握っている。
もう大丈夫。私はここにいる。生きてる。
それに、子どもは無事に救助されたんだ。
その子どもが”大ちゃん”かは、わからないけど。
「ごめん。ボーっとしちゃった……。たぶん、探してたのそれかも」
なっちゃんは少し驚いた顔をしたものの
「やったぁ! 見つかったね!」
と、尻尾(幻覚)をフリフリして喜んだ。
よしよし。よくやった! いい子だなっちゃん!
*
そして次の日の早朝。私は始発の駅の前にいた。
なっちゃんと。
だから。なぜ、ここにいる。
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