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早朝の爽やかな涼しい空気の中、駅前で腕を組んで仁王立ちする天使と睨み合う。
「なんでここにいるのよ!」
誰!? 誰が情報を漏らしたの!?
電車賃をもらうために行き先を告げざるをえなかったおじいちゃんかしら? それとも、やたらと朝が早いご近所さんや、朝散歩ですれ違った通行人、朝早くからイイ匂いをさせていた駅前のパン屋さんかしら!?
まあ、とにかく私は一人で行こうとしていたのだ。
いくらなっちゃんが優しい子でも! 私に協力的であっても! 何があるかわからない他県までは連れていけないのだ。
今日はなっちゃんはお留守番です!
「みほちゃん、一人で▲県に行くつもりでしょ。行き方知ってるの?」
「うっ……」
なっちゃんからの重いジャブがヒットする。
「バスも二時間に一本だよ?」
「え!?」
続けてブローにもクリティカルヒットだ。二時間に一本だ……と……?
「毎年来てるのに、まだ大塚のおじいちゃんの家の近くで迷子になるような方向音痴なのに。心配で一人でなんて行かせられないよ」
やれやれと肩を縮める天使はしたり顔だ。
ぐうの音も出ない……っ
「こ、ここで生活してる人と一年に一度遊びに来る人と比べられても困るけど! そんなについて来たいなら来たらいいわ! 朝って言っても小学生が一人でふらついていい時間じゃないものね! 今回は仕方なくよ!」
ハイハイと、なっちゃんに手をひかれ丁度到着した始発の電車に乗り込んだ。
ちょっと。私の話し聞いてる?
*
電車を乗り継ぎ、たっぷり二時間。途中乗り換え待ちがあり、そこからバスで一時間弱……
長い。これは一人だったら飽きて寝ちゃうわ。
しかし今回の長い旅の時間は、なっちゃんが持ってきていたお茶を飲み、これまたなっちゃんが持って来ていたおにぎりを食べながらの、のんびりゆったりとした旅だった。
──私が小学五年生の頃。自分で調べた電車に乗って、遠出をしようと思ったことがあっただろうか……
いや、ない。
──ましてや、他人の分までお茶とおにぎり(私の好きなおかか!)を用意しただろうか……
いや、ない。
おかしいな……前は主婦だったのにな……
きっと、なっちゃんがスーパー小学生だからに違いない。スーパーな小学生ならしょうがない。神様は能力まで増し増しに与えたもうたのだ。そう、なっちゃんは神様の推しなのだ。
*
バスは赤い橋を通り、川の側を通過した。
「「ここだ」」
バスの下車スイッチを押し、前のめりで降りると川を目指して歩いた。
だんだん小走りになる私の手をしっかり握ったなっちゃんも、少し小走りになっている。
遠くからは青く見えた川も、近づくときれいな清流だった。
──そうだ。あの日、「私」はここに立っていた。
自然と足が川下の方へ進んだ。
さっきとは違い、ノロノロと緩慢な動きで川下へ二人並んで歩いた。
バーベキューをする家族連れや、若者たちの塊を通り過ぎ、楽しそうな声が遠く離れ、川の音だけがハッキリと聞こえるようになった。
川が大きく曲がったところに差し掛かると、そこには高校生ぐらい男の子が二人、立っていた。足元には向日葵の花束が置かれている。
二人は無表情でじっと川を見ていた。
一歩一歩近づくにつれ、少年のうち一人に見覚えがあることに気付いた。横顔しか見えないけれど”夫”に似た横顔と。”私”に似てる髪の色。
──あれは
「……大、ちゃん……」
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