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それからというもの、所詮私は小姓の補佐でありましたので大層な事は出来ませんでしたが、毎日汗水を飛ばし、兎に角働きました。喰らいつきました。必死にしがみついてあの人に己の猛々しい姿を見せつけてやったのです。とは云ったものの、私の仕事は小姓の補佐であるからして、全ての実務はあの成利とかいう小僧めを介さねばいけぬのでした。私にはそれが苦で御座いました。私はあの人の爲に尽くしているのであって、あの様な(はな)垂れ餓鬼の爲に働いているのではないのです。私は成利を唾棄(だき)するようになりました。尤も、成利は節度の無い餓鬼故に酷く私に傲慢でありました。齢に物音だけがバタバタと聞こえてきました。これもまた、人間的な本能なのでしょうか、私は咄嗟に厭な予感が致しました。襖を(いささ)かばかりに開け私は中を見てしまいました。あの人は情けなくもま裸になって成利に跨っておられたのです。そう、あの人は成利を組み敷いておられたのです。その時、私の中でゴオゴオと炎が立ち昇っていくのが分かりました。歯を砕かんばかりに歯軋り致しました。あの人は尾籠(びろう)にも、小姓と只事ではない関係をお持ちになっていたのです。私が心中で憎み、見下していた成利は私よりも遥かに高じた関係を持っていたのです。小姓の分際で、あの人と如何にして関係を持っている事が私には許せませんでした。これを蛮の國ではジェラシィなどと呼ぶんでありましょうか。成利が()なるくて仕方がなくなりました。今直ぐにでもこの手で殺めてやらんか、と思わん程でありました。私があんな腑抜けの世間知らずより劣っている事など、ある筈がないのです。然し私はそれを翻転(ほんてん)させて考えてみたのです。あの成利を追い落とし小姓の座を濫妨(らんぼう)してやれば良いのではないか、と。小姓になれば私も成利の如く稚児(ちご)として召抱えられるに違いない、と。
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