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この写真は、おそらく彼女を探しに来た大人が撮ったものだ。黒いワンピースを着た女の人が、アイスを奢ってくれた気がする。ここまで鮮明に覚えているのに、店前でピースした記憶はない。そもそもどうして、兄貴がこんなものを持っているのか。アルバムの奥に押しやられたクッキー缶を出してくるのも、直感的なものといえる。
「わお」
中身は、手紙の束だった。兄貴の名が女子の字で書かれた封筒。下にいけばいくほど、字が子どもっぽくなる。送り主の名前は全て同じ。住所にあたる「宮城県」の意味も、今の俺なら理解できる。ざっと数えても20を越える封筒の数は、その分兄貴もマメだったことを証明している。
だけど本人は家を出ていて、今後来るかもしれない便りに返信できないかもしれない...。
机の引き出しを開けてレターセットを探し始めたアイデアは、我ながら良いものに思えた。
「ご飯よー」
何度言わせるのー?とご立腹の母さんの声に気づく方が早かった。数十分後、空っぽの引き出しをひとつ見つけた。去年の春の話だ。
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