推理にもならない

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高校入学を機に家を出た3歳年上の兄貴は、合格祝いの席でこんなことを言っていた。 「サクラサクとか開花宣言とか言うけど、花見が一番盛り上がるのって散ってる時じゃねえ?」 母さんが「アンタは弁当にしか興味ないでしょ」と突っぱねたので、その場は笑い声で有耶無耶になった。確かに兄貴は筋肉質な見た目通り体育会系の人間で、スポーツ推薦で学校を決めた。 一方、彼と近しい一部の人間しか知らない一面として、読書家という顔を持ち合わせている。小学校入学を機に父の書斎を自分の部屋にした兄貴は、壁一面の本棚に本人曰く「夢を抱いた」。そしてなぜか推理小説で本棚を埋め始める。寮に向かう出発日の朝まで、持っていく本を悩み抜くくらいの量をため込んでいた。 だから玄関先で、「本棚貸してやる」と言われた時は口元が緩みそうになった。本は好きでも嫌いでもなかったけれど、兄貴が部活と勉強(受験勉強に限る)と家族の次くらいに大事にしているものだ。すぐに自分の漫画を開いているスペースに押し込んだ。 おい誰だ、推理小説と漫画で兄弟のデキの差ダネなんて笑ったやつ!俺だって本は読むし、逆も然り。読みたいものがたまたま一緒だっただけだ。あら、仲がいいのねくらい…やっぱりやめてくれ。 せっかく「好きに使え(意訳)」と言われたのだ。前から気になっていたシリーズ物なら、春休み中に読めてしまうはず。 「マジ?」 1巻のみ姿を消している。どんな嫌がらせだ。すっかり気力も失せてしまって、視線を落とした時だった。勉強机に一番近いスペースがアルバムで埋まっていた。辞書じゃないのか、そこは。保育園の卒園アルバムまで大事に取っておく律儀なところは、普段のガサツな様子からは想像し難い。 でもああ見えて、大事な人には義理堅いところもあるからな...。 好きに使っていいわけだしと伸ばした指が引っかけたのは、1番薄いアルバムだった。理由は特にない。彼女とか写ってたらからかいがいがあるよな、くらいの気分だった。 「あ」 期待外れで、中身はまっさらだった。固いページをめくって数枚、最後の1枚だけフィルムを剥がした跡がある。おっと思ってめくってみると、写真が1枚だけ真っ直ぐに貼られていた。
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