第1話「翔太の秘密」

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第1話「翔太の秘密」

 このイレブン・ナイトツアーは、旅行会社「幻灯社」の企画する冥界ツアー。 彷徨える霊魂を召喚し貴方の知らない事実を発見できる異次元ツアーにお連れします。 深夜午後11:00に四谷4丁目から出発致します。 今回の行き先は、夫婦からの要望で、先日亡くなった子供の死の真相を探る旅でございます。 深夜の四谷4丁は、目静かな住宅街。 街灯が照らす歩道は、1組の夫婦以外だれも歩いていない。 夫は、立脇智史45歳とその妻京子38歳。 道路脇に止められた霊柩車の脇に黒い礼服を着た運転手が立っている。 立脇夫妻が運転手の前で立ち止まり声をかける。 「あのー、ツアーに予約していた立脇ですが」 「立脇様お待ち申し上げておりました」 深々とお辞儀をする運転手。 ドアを開けて霊柩車の後部席に夫婦を招き入れる。 二人が乗り込むと後ろの荷物席には、子供用の棺桶が置かれている。 少し驚いた顔の二人。 前の助手席に座る中年女性が話しかけてくる。 「ようこそ、お越し下さいました。私は、お二人をご案内申し上げます霊媒師、深山過代でございます」 「立脇です・・・あのー、疑うようで申し訳ないのですが本当に子供の霊を呼び出せるのですか」 「皆様同じ事をおっしゃいます。深い疑念をお持ちになりますと見える物も見えなくなります。黄泉の世界より降臨した霊魂に秘められた真実の世界にお連れいたします」 「はあ・・・わかりました」 「では、亡くなったお子様のお名前と年齢を、お告げくださいませ」 立脇が遠くを見るような眼差しで話し始めた。 「立脇翔太、12歳です。先日、学校の屋上から飛び降り自殺しました」 京子は、目頭を押さえ泣いている。 「学校で、万引きを強要した事を苦にして自殺したと言われたんですけど、どうしても信じられない・・」 立脇も目頭を押さえ言葉に詰まる。 運転手が腕時計を見て言う。 「それでは、予定時刻になりました。立脇翔太の元に出発致します。シートベルトを、お締めください」 立脇夫妻を乗せた霊柩車は、ゆっくりと走り始めた。 霊媒師は、両手を前に組み呪文を唱え始める。 「霊界の主よ立脇翔太の霊を降霊させたまえ」 「うーん・・」と大きく息を吸い、「かっー」っと、ゆっくりと息を吐く。 霊媒師は、吐く息と共に体の力が抜けてぐったりとする。 辺りは、どんどん暗くなりライトの照らす道しか見えない。 霊柩車は、急な上り坂を登り始め静かに深い霧の中へ入っていく。 車のライトで照らされる道も霧で何も見えない。 ゆらゆらと霊媒師の体が揺れ始める。 タイヤから伝わる走行音が僅かに車内に籠る。 霊媒師が亡くなった翔太の声で話始める。 「あー、お母さん、お父さん・・・ごめんね僕を許して・・・」 京子が驚き顔を上げる。 「貴方、翔太なの?どうして死んじゃったのよ?・・本当の事を話して」 「・・それは、絶対言えない」 翔太は、それ以上話さない。 「翔太、ねえ翔太!・・お願いお母さんたち本当の事を知りたいのよ・・」 涙する立脇と京子。 霊柩車の運転手が声を掛けてくる。 「これから霊界に入ります。翔太君の真実が車のライトに照らされて見えてきます」 ライトで照らされた霧がまるで映画のスクリーンのように映像が映し出される。 そこに映し出されたのは、翔太の通う小学校の教室だった。 翔太が生前に仲良くしていた町田佳代が窓際の席で泣いている。 佳代に話しかける翔太。 「どうしたの?佳代ちゃん」 「私の体操着が・・・」 佳代が机の脇にある袋からズタズタに切られた体操着を出す。 「ひどい、誰がこんな事を・・」翔太が驚いた顔で言う。 「澄子ちゃん。最近、上履きを捨てられたり傘を折られたり、そんな事ばかりなの」 「先生には、言ったの?」 「言ったわ。でも、それから益々ひどくなったわ。澄子ちゃんが今度言ったら殺すって・・」 佳代は、泣いている。 「あいつ!絶対許せない。僕が言ってあげる」 「だめよ。そんな事したら益々ひどくなる。だからやめて。お願い!」 「でも、それじゃ・・・、僕は、いつでも君の見方だよ。何かあったら話して」 泣いている佳代にそっと肩に手を置く翔太。 その日から、翔太と佳代は、一緒に登下校するようになった。 修学旅行がせまったある日のホームルーム。 先生が生徒に指示を出した。 「グループ別けをしたいと思います。仲の良い子どうしで5,6人でグループを作って移動してください」 ざわつく教室、みんな席を立ちすぐにグループができた。 そんな中、佳代一人だけ取り残されたように立っている。 翔太がそれを見て佳代に話しかける。 「ねえ、僕たちのグループ入らない?」 「良いの?」 翔太のグループは、仲の良い男子だけのグループだ。 グループの皆に聞く。 「ねえ、みんな。佳代ちゃん仲間に入れてもいいよな」 グループの皆顔を見合わせている。 皆笑顔でうなずく。 「良いよ。佳代ちゃん遠慮するなよ」グループの仲間が言う。 その光景を睨んで見ている澄子。 「翔太のやつ。どうなるか思い知らせてやる」と呟く。 修学旅行は、澄子の妨害も無く楽しく過ごす翔太たちのグループだった。 こうして、無事修学旅行を終えてもう大丈夫だと安心したのも束の間だった。 ある日、澄子が佳代を近くの公園に呼び出した。 放課後、呼び出された佳代が公園に行くと澄子たちのグループが待ち構えていた。 「おい、佳代!お前そこのコンビニでチョコレート持って来い」と、澄子が命令する。 「えー、でも私お金持ってないし」 「買ってこいって言ってんじゃねーよ。持って来いって言ってんだよ」 「何?それって万引きしてこいって事?」 「なんだよ、できないって言うのかよ!」 「・・・・やだ」 「てめー、前歯抜いてやる! 押さえろ!」 周りの女の子が佳代を押さえつける。 「なにするの?」 ポケットからペンチを取り出す澄子。 「やめてー!」 「前歯の無い顔は、お前に良く似合うぜ! キャハッハ」と高笑いする。 「いやー! やめて!」 泣き叫び暴れる佳代。 「どっちにするんだよ! 前歯かチョコ持ってくるか」 「わかったわ、だからやめて!」 こうして怯える佳代は、しかたなくコンビニに入っていく。 客が数人しかいない店内。 「いらっしゃいませ」店員の掛け声。 キョロキョロと辺りを見回す佳代。 額は、汗で濡れている。 そんな、佳代を不審そうな顔で見ている店員。 店員が目をそらした隙にポケットにチョコレートをそっと入れる佳代。 そのまま、コンビニを出ようとした時、店員に肩を掴まれた。 「あー、お嬢ちゃん。だめだよ万引きは、事務所まで来て」 「・・ごめんなさい。お金すぐ払います。許して・・」 佳代は、容赦なくコンビニの事務所に連れられて行く。 まもなくコンビニに呼び出された佳代の母親。 佳代に問い詰める。 「どうしてこんな事するの?佳代は、こんなことする子じゃないでしょ?だれかに命令されたんじゃないの?」 実は、両親も学校で虐めれれている事を知っていたのだ。 口ごもり下を向いたままの佳代。 佳代が思わぬ事を言い出す。 「翔太くん・・・」 捕まったら『翔太に命令されたと言え』と澄子に言われていたのだった。 それを聞いた佳代の母親は、すぐに学校へ連絡してしまった。 家に帰った佳代は、翔太の家に電話した。 電話でその日の事を話す佳代。 「ごめん、翔太。『翔太に命令された』って言えと脅されたの。澄子に虐められている事、言わないで。お願い」 「わかってるよ。僕は、大丈夫だから心配しないで」 翌朝校長室に呼び出された翔太。 校長室に入ると翔太の母親である京子が椅子に座っている。 「今、校長先生から聞いたわ。翔太、どういう事なの。貴方がそんな事するなんて信じられない」と京子が聞く。 だまって下を向いたまま何も話さない翔太。 その日は、校長から厳重注意を受けて教室に戻った。 休み時間になると澄子が翔太に話しかけてくる。 「おい、翔太!話してねーだろな」 「お前って奴は・・・言ってないよ!」 「放課後話があるから屋上へこい」 呼び出された翔太が放課後学校の屋上に行くとそこには、澄子らグループと佳代が待っていた。 澄子は、紙と鉛筆を出し、これに「お詫びに死にます」と書けと言う。 「何をいってるんだ!そんな事どうして俺が書かなきゃならないんだ」 怒る翔太。 佳代を羽交い絞めにして屋上の手すりに押し付ける女子たち。 「お前、あたしに逆らうと佳代を屋上から突き落とす」 「くそーお前たち・・」 「佳代が死んでもいいのかよ!」 しかたなく、紙に「お詫びに死にます」と書いた翔太。 この先どうなるか想像がついた翔太。 書き終えると澄子が言う。 「飛び降りろ」 「ふざけんなよ・・・できる訳ないじゃん」 「じゃあ、佳代が死んでも良いのかよ!」 「お前たちそんな事が許されると思ってるのか!」 「そうか、じゃあ佳代が死ぬ所お前見てろ」 佳代の首のあたりをグイグイと外に向けて押し出す澄子。 「やめろ!」と澄子を制止する翔太。 佳代が涙を流して翔太を見つめている。 「わかった、俺が飛び降りる」 翔太は、それ以上何も言わず、屋上から飛び降りてしまった。 屋上から無言で落ちていく翔太。 霧の中に映し出された映像がここで終わる。 ライトに照らされた白い霧しか見えない。 霊柩車の運転手が言う。 「これでイレブンナイトツアーは、終了です」 いたたまれない真実の悲しみに翔太の両親は、涙した。 静かに霧が晴れ夜明けの四谷に戻っていく霊柩車。 もちろん霊界での出来事は、他言してはならない。 おわり。
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