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「きょーすけ。何してんの?」
こんな押し問答をしているうちに、渦中の人物が来てしまったようだ。でも、怖くて視線を向けられない。高梨さんが好きになった女性がどんな人なのか気になったけど、見たら余計に落ち込みそうで視線を逸し続ける。
それにしても、女性にしては声が幼い。でも声優とかで幼女役があるぐらいだから、そういう声質の人もいるはずだ。
「美織。部屋に戻ってろ」
そうか、美織という名前なのか。可愛い名前じゃん。
「なんでそのおじさん。泣いてるの?」
「えっ?」
『おじさん』『泣いてる』の単語に驚く。おじさんだと? まだ俺、二十六なのにか。
訝しげに声のした方へと視線を向け、唖然とした。
「えっ……子供」
四、五歳ぐらいの三つ編みをした女の子が、腕組みをしながら仁王立ちしていた。
クリっとした黒目がちの瞳が可愛いが、口がへの字で不満が顔に現れている。
「きょーすけがいつまで経っても来ないから、カトリーナ姫も私もご立腹なんだけど」
女の子が睨めつけるような視線を高梨さんに向け、鋭く言い放つ。
「分かったから……すぐ行くから戻ってろ」
高梨さんが今までに無いぐらい狼狽えている。チラチラとこちらを見ては恥ずかしそうに、眉根を寄せている。
「早くしてよね。カトリーナ姫はグズがお嫌いなんだから」
そう言い残すと、女の子は踵を返していった。
どういうことなのか呆然としていると、高梨さんが溜息を吐き出し「悪かった。中に上がってくれ」と諦めたように俺の腕を引いた。
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