恋するスイーツ

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「高梨さん、驚くだろうなー。なんてったって俺が突然来て、特製パフェを作るんだから」  俺は半ばスキップでもしたい気持ちで、会社の上司で係長でもある高梨さんの住むマンションへと向かっていた。  高梨さんが意外にも甘党だということは、リサーチ済みだ。  特にパフェが好きらしく、普段あまり笑顔を見せない高梨さんが唯一と言っていい程、頬が緩む瞬間はパフェを食べてる時らしい。  高梨さんは三十歳という若さで出世したこともあって、とにかく仕事が出来る。部下のフォローもしっかりしてくれて、コーヒーも奢ってくれる優しい人だ。  ただ照れ屋で口下手なのがたまに傷だった。表情も大抵険しく、近寄りがたい印象に見えてしまう。  それに加えて飲み物を奢ってくれる際、高梨さんは自販機にお金を入れて何も言わずに距離を取るのだ。  俺は慣れてるから「いつもすいません」と言ってボタンを押す。要は好きなのを買えということだった。  でもそんな事を知らない人は当たり前に、「係長。お金だけ入れっぱなしですよ」と困惑してしまう。  一言「好きなの買え」で済むのに言わないのは、恩着せがましく思われるのが嫌だからだと言っていた。そんなに難しく考えなくても良いのにと、俺はいつも思っていた。  そんな高梨さんとの関係が変わったのは、会社の忘年会で酔っ払った高梨さんを部屋まで送ったのがきっかけだった。  部屋に上がった俺は突然抱きしめられ、「嫌なら突き飛ばせ」と言われたのだ。  酔っていたとはいえ、高梨さんは真剣な眼差しで俺を見つめてきたし、正直俺は嫌じゃなかった。
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