騙しだましい

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騙しだましい

 それはまるで鏡のようだった。両親に連れられて来た墓地を興味半分に歩き回った琢磨にそれはにんまりと笑いかけた。どこかで見た顔だ。誰であったか記憶を呼び起こしながら琢磨は小さく呟いた。 「僕だ……」  あれから時は流れて、高校生となった琢磨はけたたましく鳴るスマホのアラームを止めて呟く。 「代わりに学校行ってくれない? 」  幼い日に目にした自分と同じ顔の存在。それは今や琢磨の側にいる。  ベッドで布団を被る琢磨の側にユラリと火の玉が現れて、火の玉は姿を変えて琢磨の姿になる。 「行ってきます」  琢磨の姿をした火の玉はそう言って部屋を出る。何度となく火の玉に身代わりを頼んできたがそのほとんどは失敗している。ただ今日はうまくいくかも知れないと淡い期待は毎日のように起きるのだ。  火の玉が琢磨の部屋から出て十分。琢磨が布団の温もりの中でまどろみはじめたとき、琢磨の部屋のドアが勢いよく開いた。 「琢磨! ダマちゃんに身代わりさせないの! 」  ああ今日も失敗だ。幼馴染みの梨花の目は今日も誤魔化せなかった。 「へぇへぇ」  琢磨は仕方なく布団から這い出る。 「俺、着替えるんだけど? 」 「だから何!? 監視してなきゃまたダマちゃんに身代わりさせるかも知れないじゃん! 」  幼い日に見た自分。それは火の玉が化けたものであり、火の玉はただ人を驚かしたかっただけだと笑いながら琢磨に語った。その言葉を聞いた琢磨の反応は火の玉には意外な言葉だったのだろう。 「すげーー! そんなことできたら色々すごいことできんじゃん! 俺と友達になろうよ! 一緒に帰ろう! 」  驚かず怖がらず連れ帰ろうとする琢磨に火の玉は苦笑してしまい、琢磨の希望通り今の今まで琢磨と一緒にいる。人に化けることができる火の玉を琢磨は騙しだましいと名付けて、まずはいたずらをしようと意気込んだ。その計画を梨花に打ち明けてしまったのが運のつきで梨花は騙しだましいをダマちゃんと呼び、琢磨のいたずらを阻止する立場になってしまった。騙しだましいとの生活も長くなったが梨花がいるせいで騙しだましいが琢磨のために働けることはまだなかった。  騙しだましいの存在を知っているのは琢磨と梨花だけだが、なぜか梨花は琢磨と琢磨に化けた騙しだましいの違いが一目で分かるのだ。なぜ梨花は見分けがつくのかは梨花はやはり今の今まで琢磨には教えていない。
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