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「――お母さん、寝た?」
「ああ、薬がよく効いたらしい。今はすやすや眠ってるよ」
お母さんの狂乱から数十分後。我が家はようやく落ち着きを取り戻していた。
騒ぐだけ騒ぐと、お母さんは今度は電池が切れたように大人しくなった。一人で立つこともおぼつかなくなり、賢哉が支えながら寝室に連れて行って寝かせ、何かの薬を飲ませていた。
それでもお母さんは「行かないで、ねぇ行かないで」とうわ言のように繰り返すので、眠るまで賢哉が傍にいてくれた、という訳だ。
私はその間、殆ど動けずにいた。あまりにも沢山の、思いもしなかった出来事が起きて思考が麻痺していたらしい。
「さて……今度こそ、話を聞いてくれるかい? 弥生ちゃん」
「はい……」
そこから、賢哉の――私の本当のお父さんの、長い長い話が始まった。
事の始まりは、お母さんが私を妊娠した頃までさかのぼる。
当時、恋人同士だったお母さんと賢哉は、子供が出来たことをきっかけに結婚しようと考えていた。けれども、何か些細なすれ違いが原因で二人は結婚することなく別れたらしい。
賢哉いわく、「してもいない浮気を疑われた」のだという。若い頃のお母さんは、かなり思い込みが強く嫉妬深い性格だったそうだ。
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