お母さんの元彼が我が家に転がり込んできた話

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 その後、お母さんがシングルマザーとして私を育てていた時に出会ったのが、私の記憶の中にいる「お父さん」だったらしい。  二人の結婚はまだ私が赤ん坊の頃のことだったので、私がその事実を知らなかったのも無理はない。お母さんも、そんなこと一言も言っていなかったし。  賢哉も「お父さん」とは何度か会ったことがあるらしく、「とても良い人だった」と言ってくれた。私にはそれが、なんだか嬉しく感じられた。  その後、「お父さん」は死んでしまったけれども、お母さんは賢哉に頼ることもなく、女手一つで私を育て上げた。だから賢哉もそれを尊重して、私に会いに来るようなこともなかったらしい。  けれども、数か月前に突然お母さんから連絡が来たのだそうだ。その理由というのが――。 「実はね、卯月は……君のお母さんは、病気なんだ。それも、ちょっと厄介な」 「えっ――」  私は全く知らされていなかったけれども、お母さんはしばらく前から重い病を抱えていたのだ。  ――脳腫瘍。脳の一部に悪い腫瘍が出来て、様々な害をもたらす病気だ。 「腫瘍自体はそれほど大きくなくてね、すぐ命に別状がある訳ではないんだけど、根気強い治療が必要になるんだ。しかも、患部が脳だから、体調だけでなく心にも影響が出やすくてね。……最近の彼女、やけに怒りっぽかったり、神経質だったりしただろ? あれも多分、病気や治療のストレスが原因なのさ」 「そんな……。私には、そんなこと一言も!」 「多分、心配かけたくなったんだろうね。医者から告知された時も、『ご家族を呼んでください』って言われたのに、ご両親や弥生ちゃんじゃなくて、俺を呼んだくらいだからね」
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