渡り鳥と呼ばれた私について

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「誰か……お願い」  一度口から零れたその一言、その願いは、一度放ったが最後止められなかった。 「助けて……」  はじめは小さく、次第に声を張り上げながら唯一の願いをとなえ続ける。 「誰かこの子を助けて……っ」  まだ温かな宝物を強く抱きしめ力の限り声を張り上げる。 「お願いこの子を……!」  禍々しいほどに輝く五つの月の下、山頂から全方位に広がる森に向かって何度も叫ぶ。だがそれにこたえる者は一向に現れない。 「うっ……」  唐突に涙があふれだした。しかしそれを止めるすべを私は知らない。救済はどこにもないし、この世界には試練しかないし、都合のいい神や奇跡の類は存在しないのだから――。 「う、うう……」  圧倒的な孤独と絶望に貫かれ――。 「ああああ……!」  私は声を限りに叫んだ。  *
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