渡り鳥と呼ばれた私について

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 図書館で借りた本を読むことが私の唯一の趣味だった。  近所の狭い図書館にある本は手当たり次第に片っ端から読んでいた。純文学、エッセイ、ビジネス書、はては油絵の描き方や俳句の作り方といったものまで。どんな本を読むか、そこに年齢なんて関係ないと思っているし、乱読は悪ではないとも思っている。  ファンタジーにも一時期ハマった。ライトなものからハードなものまで、アニメになったものから古典まで。ただ、それもファンタジーというジャンルが好きだから読みふけっていたわけではない。舞台装置としてのファンタジーが目新しく思えたからだ。  けれどしばらくしたら食傷気味になった。結局、ファンタジックなシーンとは、私にとってはアメリカや中国、インドと同じようなものだと気づいたからだ。海外だけじゃない、国内もそう。秋田も滋賀も高知も群馬も、東京も、私にとっては異世界と同じだったのだ。  そう、私は横浜で生まれ、横浜で育った。そしてそのまま横浜で息を引き取るものと思っていた。それが私の人生だと、若いながらもそう思っていたのだ。  取り立てて、平凡。でもそれでいい。奇想天外はいらない。あっと驚くような冒険も成功もいらない。荒波のたたない穏やかな日々を過ごせればそれでいい。  そう思っていたのだ。  なのに――。  *
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