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「……魔夜くん……?」
約束をしていた黄崎ゆずが、駐輪場の死角から、そっと顔を出した。
「少し、遅すぎるんじゃない?」
ゆずの声は冷たかった。
魔夜は、ただ詫びるしかなかった。
「アルカリ三世ピンチ! 虹7最後の一人を落とすことができるのか!? 現在好感度ポイントは【一線越え】ラインに達していないぞ!
運も味方につけた紗魅ィは最後のターゲット、紫乃森梨絵のイベントに向かって移動中! 不可能と言われた虹7のワンデイ攻略そして前人未到の一日11人攻略達成は目の前だ!」
ゆずの目に涙がにじんでいた。街灯の明かりが反射して輝く涙。
魔夜を糾弾するゆずの声が震えていた。もちろん怒りもある。が、黙って全てを受け止めている魔夜に感情をぶつけているうち、その怒りの内圧は次第にその力を減じてきていた。そして、爆発的な怒りに覆い隠されてしまっていた別の感情がゆずの意識に上り始めたのである。
一人で待っていた時の心細さ。そして魔夜が来たとわかった時の安堵。
もう来ないんじゃないかという不安。もう少しだけ待ってみようというあきらめきれない想い。そして、やっぱり来てくれたという嬉しさ。
約束が守られなかったという悲しみももちろんある。その全てがないまぜになって、ゆずは自分の感情が制御できなくなっていた。
魔夜を責める言葉が単調に、そして弱々しくなっていった。
「私もう……帰る……!」
魔夜に背を向けたゆずの涙声。
魔夜は何もいわず、ゆずの腕を引き寄せ、その身体を抱きしめた。
「ずるいよ……魔夜くん……」
ゆずは気づいていた。今まで、こんなに素直に、誰かに感情をぶつけた事はなかったのだ。こうして自分の感情を受け止めてくれた人は、魔夜が初めてだった。
魔夜は、自分の胸に顔をうずめて泣きじゃくるゆずの頭をそっと撫でた。
ゆずが魔夜の顔を見上げる。ゆずの涙を、魔夜の指がそっと拭った。
そして、二人の唇が重なった。
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