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「ちょっと待ってくれ!」
声が上がった。紗魅ィ・蒼月だ。
同時にアルカリ三世も「ちょっと待って!」と書いたスケッチブックを振った。
「何故だ!? 俺の方が攻略人数も多い。ポイントも高い。色んなテクニックだって見せた。何故こんな結果になるんだ!?」
必死にアピールする紗魅ィ・蒼月。その横で、アルカリ三世も「困る! 困る!」と書いたスケッチブックを振る。
「そうだな。審査結果の内容を端的に説明しようか」
ぽん・PEN吉が紗魅ィ・蒼月の肩を優しく叩いた。
「美少女ゲームが何故存在するのか、っていう事だよ。
君は効率を重視するあまり、全てのイベントで音声飛ばしてただろう? ただ効率よく上手にクリアするだけじゃ、他のジャンルのゲームと同じだって事さ。
その点、アルカリ三世のプレイは、見てる人をドキドキさせ、本当に恋愛している気持ちにさせてくれた。そこが根本的に違ったんだよ」
がっくりと肩を落とす紗魅ィ・蒼月。彼はアルカリ三世に向き直った。
「確かにそうだ。俺は何かを間違えてしまっていたようだ。今回は俺の負けだ。次は負けないからな」
潔い彼の言葉に、会場から拍手の渦が起こった。だが。
アルカリ三世は「困る! 困ります!」というスケッチブックを持ったままうろたえている。
「どうしたんだアルカリ三世! 優勝者は君だ!」
ぽん・PEN吉の声にさらに場内がヒートアップする。
「ん? なに? ええと……『優勝したら、顔出しするって約束しちゃったから、困る』?
いいじゃないか! 『ロマン派の巨匠』アルカリ三世がどんなやつなのか、見てみたいよなぁ、みんな!」
うおぉ~! と歓声が上がった。
「うぅ……」
くぐもった声が漏れた。そして、意を決したように、アルカリ三世がマスクとサングラスを取り、服に手をかけた。
着ぐるみのような肉体は、着ぐるみだった。
中から出てきたのは、ショートカットの女の子だった。しかも、かなりの美少女だ。Tシャツにショートパンツといういでたちだが、着ぐるみの中に長時間いたせいで少し汗ばんでいる。
一瞬静まり返った会場は、爆発しそうな熱気をはらんだ歓声で満たされた。
「だから、嫌だったのにぃ……」
そう言ってうつむくアルカリ三世。
「あ、アルカリ三世さん! 俺と一緒に、プレイ動画とかやりませんか!?」
すかさず言い寄る紗魅ィ・蒼月に、アルカリ三世は笑顔で答えた。
「私、あなたのプレイスタイルじゃ、一生落ちませんよ?」
14万人を収容する巨大ドームが、歓声で揺れた。
――GAME OVER――
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