運命の賭け事

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週末の夜。 気だるい体をそのままベッドに沈めていると、シャワーを終えた彼が出てきて身支度を始めた。 「帰るの?」 目の前で服を着ていくのを見ながらのその質問、ちょっと間抜けだったかな。帰るつもりがなければ服など着ない。 「お前は寝てていいよ。支払いも済ませておくから」 「いいよ。泊まるのは僕だから、僕が払う」 最後に腕時計をはめた彼は、僕を見ずにカバンに手をかけた。 「・・・別れよう」 それは唐突に発せられた。でも僕は、別段驚きはしなかった。 「わかった。今までありがとう」 その言葉にぎゅっと眉根を寄せ、一瞬目を閉じるも直ぐにカバンを持って部屋を出ていった。 その背を見送ったあと、僕はゴロンと反対側を向く。 なんで別れを告げた方が辛そうな顔をするのだろう。 窓に広がる夜景を見ながら、先程の彼を思い出す。 別れを告げるのがわかってたのにしたのかな?それとも、してる最中に別れようと思ったのかな? いつものように待ち合わせをして、いつものようにホテルに入って、いつものように体を繋げた。 特に変わらない彼の行動に、いつから別れを言おうと思っていたのか検討もつかない。でも・・・。 僕はまた振られたってことだね。 何人もの人が僕の上を通り過ぎていく。時々立ち止まってくれる人もいるけど、大抵は彼のように去っていく。大体3ヶ月・・・。彼は3ヶ月半のお付き合いだから・・・そんなものか。 ここまで来ると、僕の方に非があるのかもしれない。 彼は決して悪い人じゃなかった。 顔は悪くないし、性格も優しい。デートも飽きさせないように色々考えてくれたし、夜の方も下手ではなかった。 僕はベッドから出るとシャワーを浴びて服に着替えた。そしてスマホとキーを持つとバーラウンジへと向かう。 まだそれほど遅い時間では無い。少し飲んで、運が良ければ一夜の相手が見つかるかもしれない。 たった今振られたばかりだと言うのに、僕は次を探してる。 あ、そういうところか・・・。 振られても僕の心は痛まない。それほど相手に執着していないからだ。 でも嫌いじゃなかった。 だからキスもするし、体も重ねる。その人のものを口ですることだって・・・飲むことだってできる。 でも・・・。 好きでもなかった、てことか。 僕はカウンターの端に腰掛けて、軽めのカクテルをおまかせで頼んだ。 男でも女でも、今日最初に声をかけてくれた人にしよう。 そう思いながら、出てきたカクテルをちびちび舐める。出してくれた時、このカクテルの名前を言われたけど、忘れてしまった。 お酒は飲むけどあまり強くはない。それに、実はあまり興味もない。要は酔えればいいのだ。 たとえ相手が見つからなくても、アルコールが入れば一人でも眠れる。 そう思ってたら、隣に人の気配。 「隣、いいですか?」 テノールの声に顔を上げると、背の高いスーツの男が立っていた。 顔もスタイルも悪くない。 「どうぞ」 ここは普通のホテルのバーラウンジ。その手の人ばかりが来る場所じゃないけど、わざわざ隣に来たということは、そういう意味だよね。 「お一人ですか?」 彼は水割りを頼んで僕を見た。一人だと思ったから声をかけたんじゃないの? 「ええ。あなたは?」 愚問に愚問で返す。こういうやり取り、嫌いじゃない。 「実は2年ぶりに日本に帰ってきたところなんですよ。その間に気軽に声をかけられる友人もいなくなってしまって・・・」 水割りが前に置かれる。それに小さくありがとうと応える。 「でも、なんだか人恋しくてここに来たんです。もし良かったら、少し付き合ってもらえませんか?」 さわやかに笑いながら話す彼を横目で見ながら、カクテルを一口飲んだ。 人恋しい、か・・・。僕は人肌が恋しい。 「僕もちょうど一人が寂しかったんです。その一杯が終わったら、少し部屋で話しませんか?」 そしてもう一口飲んだ。 これ以上飲んだら酔ってしまいそうだ。 「いいですね。ではそうしましょう」 相手はその意図がわかっているのか、快く同意してくれた。
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