消えた妻

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 「はい、お待たせ~。ケンジくんの元気が出るように、スタミナたっぷりだよっ!」  俺の祈りはどこへも届かず、テーブルの上にはハイカロリー飯が届いた。  カキの牛肉巻きにんにくソースあえ、ウナギのとろろ添え、厚切りベーコンとほうれん草のサラダ半熟卵のせ、ガーリックライス。  うん、うまい。そうそう、奈々は料理上手なのだ。しかし食べながら俺は複雑な気持ちになった。なぜなら、この味は確かに奈々が作った料理に間違いないからだ。俺の仮説「妻入れ替わり事件」はもろくも崩れ去った。  俺は「まだ本調子でない」と言い訳しながらあまり話さず、というか奈々が食べている姿を直視できず、なぜなら動物を思い起こさせるからブヒブヒ、さっさと風呂に入り久し振りに自宅のダブルベッドに寝転がった。  ああ~、やっぱウチはいいなあ。俺は奈々の件をとりあえず脳内ペンディング(保留)とし、久々のフカフカひろびろベッドを堪能した。  しばらくゴロゴロまったりしていると、脳内ペンディング中の奈々が、あろうことかスケスケヒラヒラ・どピンクのセクシーランジェリー姿で、ごっつあんです。と寝室に乱入してきた。いや、ごっつあんです。は俺の幻聴か。  とにかく身の危険を感じた俺は、反射的に寝たふりをした。ぐぅぐぅ。 「ねーえ、ねーえ、ケ・ン・ジく~ん。あたしさみしかったぁ……! スタミナたっぷりご飯で、そろそろ元気になったかなー?」  俺の横に巨体を滑り込ませる奈々。すわ、首都直下型地震か!? ベッドに巻き起こる激しい揺れ。それでも固く目を閉じたままぐぅぐぅを続ける俺だったが、構うことなく、下半身に伸びてくるぼってりネッチョリぶよぶよした分厚い手。ああ、こってり夕飯メニューはそういう事だったか。    逃げ場は、もうない。  俺は大きく重い肉の塊の下に、徐々に組み敷かれ飲み込まれていった。  何も知らずに一人眠っていた日々が、ちょっとだけ懐かしい……か…も…… (おしまい)
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