消えた妻

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 そんな事を考えていた俺は、思わず笑顔になっていたようだ。 「うんうん、うれしいですよね。まだしばらくは、リハビリをかねての通院にはなりますけども、とりあえず一時帰宅の手続きをしましょうね。残念ながら奥さんは出張中だそうで、でも連絡したらすぐ戻られるって。とても喜んで、泣いておられましたよ」  奈々! 俺の可愛い奈々。待っててね、すぐ帰るからね。  ほどなくして俺は、タクシーで帰路についた。  久し振りに見る我が家。10階建てマンションの4階角部屋、2LDK。結婚と同時に借りた分譲賃貸、いわば奈々との愛の巣だ。どことなく様子が違うが、長い間離れていたのだから、まあそんなもんだろう。  リビングのソファに座ってしばらくぼんやりしていると、ガチャガチャと玄関を開ける音がした。俺は立ち上がって、玄関に続く廊下のドアを開けた。 「ケンジくん……!」  部屋に飛び込んだとたん抱きついてきたのは、もちろん我が愛しの妻だ。 「奈々……!」  俺はそんな妻を、しっかりと抱きとめた。しかし、ん? なんかこう、手が回らないな……あれ、なんか大きくなってる……?  俺は体をそっと離すと、改めて妻の顔を見た。しかしそこにあったのは、見知らぬ人の顔だった。 「……だ、誰!?」  妻? はサッと顔色を変え、突然怒り出した。 「なによそれ、私の顔忘れたの!? あなたの妻、奈々じゃないの!」  う、うん、そりゃそうだよね。  言われてまじまじ見直すと、確かに我が愛妻・奈々の面影があった。でも、奈々はこう、抱きしめると折れそうに華奢で、少女のように可憐で可愛くて……第一、小顔で。目がくりくりパッチリと大きくて。アイドルのミウちゃんにそっくりで。  ……でも今目の前にいるのは、俺の中でイメージとしてある奈々を三つ束ねて手荒くこねてもいちど人間に作り直したような。  肉に半分埋まった細い目、重力に完敗し肉の重みで垂れた頬とアゴ肉、たっぷりとした二の腕、ご神木のように年輪を感じさせる、堂々たる胴回り。ウエストというより胴回り。
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