17人が本棚に入れています
本棚に追加
それは一瞬の出来事だった。
会社帰りの疲れた雨の金曜日。俺はいつも通りに忙しい一週間が終わった解放感から、お気に入りのキャット・ガール・ファットを爆音で聞きながら、鼻歌交じりで我が家へと車を走らせていた。何といっても、家に帰れば最近テレビでよく見るアイドルのミウちゃん、によく似た可愛い妻・奈々が、
「おかえり(ハート)」と、俺を暖かく迎えてくれるのだから。
俺29歳奈々26歳。2年の交際を経て3ヶ月前に結婚したばかりの俺と奈々は、甘々ラブラブな新婚生活のまっただ中にいる。明日は会社休みだし、今夜はゆっくりできる。うん、今日あたり奈々とじっくり愛を育むかっ!
俺は奈々とのアレやコレやを想像しながら、思わず一人ニヤニヤとしてしまった。その時だった。
「うわっ! なに!?」
脇から急に飛び出て道路の真ん中で立ち止まった猫に驚いた俺は、慌ててハンドルを切った。
……そこからの記憶はすっぽりと抜け落ちている。
今朝説明されたところによると、そのあと俺は電信柱に思いっきり激突し、車は大破。即死でもおかしくなかったが、ギリギリのところで持ちこたえた。らしい。しかし、意識は戻らずいわゆる「植物人間」として、それから約半年という長い期間を病院で、文字通り死んだように横たわって過ごした、否、生かされていた。らしい。
そして、今朝早く、俺は突然目を覚ました(意識が戻った)という訳なのだ。
「本当によかったですね……! はやく家に帰りたいでしょう」
涙ぐむ主治医らしき人。ああ、そうだ。俺は家に帰る途中だったんだ。今日は金曜日で、明日は休みで、だから今夜は奈々とアレやコレや……
最初のコメントを投稿しよう!