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昔々あるところに、「幸運の花」が咲くと言われる村がありました。
幸運の花とは、文字通り幸運を運ぶ花。
一度花が開けば、湖を埋めるほどの大金でも、山を越えるほどの城でも、最盛期の国を乗っとることでさえ思いのまま。その人にとって最高の幸運を与える花です。
しかしその分生育や繁殖が難しく、その村以外では芽さえ出ず、どれだけ高級な肥料を与えても枯れてしまうのだと言われており、その村のなかでさえ咲くのは奇跡だと言われていました。
ある時その村に一人の旅人がやってきました。旅人は村長に、幸運の花の種を分けてほしいと申し出ました。
村長はまず断ります。 ただでさえ貴重な花の種を、見ず知らずの旅人にあげたくないのだと。
しかし旅人はいいます。
「私は花を育てることに関しては世界一。この花も見事咲かせて見せましょう。万が一咲かせることができなければ、この身をどう扱っていただいても構いません」
村長はその言葉を聞いて少し逡巡した後、一粒の種を差し出しました。そこまでいうなら差し上げる。ただし先程の言葉を忘れぬようにと。
旅人はそれはそれは嬉しそうに笑い、至極大切そうにその種を受けとりました。
そしてこの誰もが無謀だと笑った花の生育ですが、意外や意外、うまくいきました。
旅人はまず村に小さな居を構え、そこにとじ込もって花の生育をしました。5日後、村長が様子を見に来たとき、旅人は少し疲れたような様子で出てきました。
「いかがですか、咲きそうですかな?」
「はい、芽を出すことには成功しました」
その言葉を聞き、村長は顔色を変えて中を覗き込みました。中はガランとしており、花を育てるためのプランター、そして旅人の荷物以外はなにもありません。
そしてそのプランターの中には、旅人の言葉通り青々とした芽を出した花が鎮座していました。
「そんな、どうして」
「普通とは少し異なった生育の仕方をしております。…村長はご存じかと思いましたが」
「え?いや…知っているわけがないでしょう」
「おや?私は旅の途中、貴方は村のなかで唯一花を咲かせたことがあるとお聞きしましたが」
すると村長はぴくっと反応しましたが、それは噂でしかない、とにかく生育を頑張るといいと言って足早に去っていきました。
それからも、旅人は引きこもって生育を続けました。そして発芽から2週間がたった頃、旅人は村長の家を訪れました。
「村長、花につぼみがつきましたよ」
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